鍼灸師にしかできない仕事
もともと鍼灸の起源は医療です。今でもその一翼を担ってはいますが、居心地の悪いポジションにあるように思います。少なくとも私はそう感じていて、医療系国家免許でありながらもスッキリしきれません。
医師や医療施設との連携を推し進めている先生もたくさんいらっしゃって、そういう先生方のおかげで今の環境があります。私も自分なりに役立てることはないかと考えてきましたが、制度や政治に関わるものは苦手で、隠さずに言えば何もしていません。
私がずっと考えてきたのは、鍼灸師にしかできないことです。
最近は言われることがなくなりましたが、経営が安定していなかった昔は「鍼灸にこだわるから上手くいかないんだ。免許があるんだしマッサージをすればいいんだよ。マッサージだったら、やってほしい人がいっぱいいるんだから」と何度聞かされたかわかりません。
私は鍼灸師であると同時にあん摩マッサージ指圧師(以下、あマ指)です。同時に免許を取りました。取った免許を隠して使わないというのは理解しづらいかもしれません。
もともと鍼をメインでやりたくて学校に入学し、在学中はいろいろなものに積極的に接しました。気持ちはより固まりました。鍼に専念した方が鍼の可能性を引き出せると思ったからです。
現実はあまくありません。鍼に専念したところで患者さんがやってくるわけではありません。鍼がやりたいというだけで、鍼でなければならない理由が示せていないからです。「治ればなんでもいいんだよ。鍼にこだわってるなんてバカ?」という声が実際に聞こえてくることもあれば、そう聞こえることを言われたことは一度や二度ではありません。
言われても仕方ないわけです。鍼特有の効果を見せられなければ「鍼を打たれるのが好き」というニーズが残るだけです。「ここに鍼をして欲しい」と示された場所に鍼をするという仕事であるならば、私はこの仕事に魅力は感じません。
鍼ならではの効果
抗うにはたった一つしかありません。鍼特有の効果を出すことです。そこで、私は次の3つを同時に満たせるのが鍼であると考えたのです。
①即効性がある
②動きを改善できる
③ピンポイントの効果を出せる
このヒントになったのが、活法(古武術整体)でした。詳しいことは割愛しますが、①と②を満たす名人芸を目の当たりにして入門しました。当時としては、鍼灸にはないと思ったから面白くて学び始めたのですが、そこを強調する鍼灸師が少ないだけで、実は鍼灸の魅力も、①即効性と②動きの改善だったのです。
もし、その2つだけだったら、私は鍼灸をやめて(あマ指を持っているわけですし)、手技療法の活法に専念すればよかったのですが、③については鍼の方が圧倒的に有利であると思ったのです。活法の術理をマスターし、ツボの効果と噛み合う理論ができたら、鍼でなければいけない理由ができると思ったのです。
動きを改善するツボ
ここまでの話は、私の試行錯誤と同時に整動鍼ができるまでの経緯でもあります。整動鍼は私が鍼灸師として生き残っていくための生存戦略として生まれたものなのです。この生存戦略は私だけにとどまらず、整動鍼を学んだ鍼灸師から「整動鍼に出会ったから鍼灸師を続けていられます」と言っていただけます。
整動鍼という名前が知れ渡ってくると、「整動鍼って効くの?」と一括りにされて批評されますが、使い手の習熟度にもよりますし、効果的な場面もあればそうでない時もあります。
従来の鍼灸が否定されるわけでもありませんし共存できますから、どっちが効くかみたいな比較も意味がありません。「動きを整える」というコンセプトに基づいて、ツボと動きの関係を利用するというものです。
動きの変化は可動域の変化で説明してきたのですが、可動域には表れにくい感覚的な好転もあります。たとえば、姿勢が安定するとかバランスが良くなったなどの反応は数量化がむずかしく、受け手の感想に頼るしかありませんでした。何とかしたいと思って着目したのは足裏の重心測定です。
足裏の重心測定
今年の2月から専用の測定機器を導入してデータを集めています。
先日、1つ目の事例を公開しましたので、今回は2つ目の事例となります。動画を見ながら説明をお読みください。お悩みは、足の指に力が入りにくいというものです。転倒してから調子が優れないという女性です。
実際に測定してみると、右足の指に圧がかかっていません。母趾はかかっているように見えますが、白い線を見てください。この線は重心が通っているラインです。Beforeの右足を見ると白い線が母指球付近で止まっています。これは、母趾に重みがかかっていないことを意味します。接地はしていても、親指で蹴れていません。他の指は、ほとんど接地すらしていません。
鍼を背中のツボに4本行ったあとの変化です。途中も計測していますが4本目を行った後がわかりやすいので比較の対象としました。変化は一目瞭然です。右足の趾すべての圧が増しています。足の趾グーをつくる動きができるようになったわけです。立った時の地面を掴む力が出てきて歩行の姿は安定していました。
狙ったわけではりありませんが、左右の接地時間が720ms(0.72秒)とピッタリ同じになっています。
まだまだ検証中ですが、足裏の変化を高い確率で出せるようになっています。いろいろな問題の形があるので、何でもコントロールできるわけではありませんが、ある程度までなら狙った効果を出すことができます。
無症状であっても変化しますし、痛みがあっても変化します。
しかも使ったのは背中のツボです。不思議だと思いませんか。私はとても不思議です。
ツボを通じて誰も知らない体の構造に出会う
もっとも困るのは「なぜですか?」と訊かれることです。なぜだか私にもわかりません。医学的な説明ができるからやっているのではなく、変化させることができるからやっているのです。「こんなのただの偶然、嘘でしょ」と言われることも覚悟しています。
だからこそのデータです。ご本人に許可を得て公開していますので本人が証言者です。こうした変化が起こることから、体の構造というものは私たちが考えている以上に複雑であると言えます。解剖学や、動きを考慮した機能解剖学では解けない問題がたくさんあるのです。
ツボに鍼をしたから、その構造がわかるという言い方はできませんが、相関関係は見えてきます。構造的には説明できない、何らかのつながりがあるのです。それを証明することは誰かがやってくれると信じて、私は知られていないツボの効果をほのめかしていきたいと思っています。
体の構造は不思議です。いくら解剖学や機能解剖学の教科書を読み込んでも載っていない関係が、ツボに鍼をすることで浮かんでくるのです。まだ誰も知らない秩序を探す面白さが鍼灸師にはあるのです。私にとって、鍼灸師は創造的でエキサイティングな仕事です。その上、患者さんから感謝されるのですから、このお得感をなんと表現したらよいのでしょう。
これが、私が鍼灸を楽しめている理由、鍼灸師を続けていきたい理由です。ここに書いたのは個人的なものです。別の魅力もあり、なんだってよいのです。でも、何かひとつ見つけておかないと、いつか鍼灸師を続けていく意味を見失ってしまいそうです。
足の重心測定はまだ始まったばかりです。これから色々なことができるようになっていくと思います。成果は時折報告していこうと思っています。
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