バレエの体づくり ~見えない筋肉を動かす~

バレエの体づくり~見えない筋肉を動かす~

満身創痍で迎えたバレエの発表会』のつづき

今日は、鍼灸師としてバレエについて思うところを書いてみます。我が娘のコンディショニングを通して多くのことを学ぶことができています。

ツボは体の運動能力のポテンシャルを引き出す効果があり、それをもっとも効率よく引き出せるのが鍼灸師と言えます。運動能力を引き上げようと思ったら鍼灸が最適です。

バレエと言ったら関節のやわらかさを思い浮かべる人が多いと思います。実際にそうで、日常生活では必要ないと思うほどの可動性を求められます。柔軟性を上げるためにはストレッチは欠かせませんし、ちょっとでもサボるとすぐに柔軟性は落ちてしまいます。

体づくりは第一に本人の努力だと思うのですが、そのいっぽうで努力の限界を探ることも必要です。そこにおいて私にできることがありますので、理論的なバックボーンを明らかにして、実践してきたことを書きます。

張力とツボ

ツボの効用はさまざまですが、私が着目しているのは張力調整の役割です。従来の鍼灸理論ではあまり語られてこなかったので、独自に探求して「整動鍼」というものにまとめる仕事をしています。

筋肉の中に現れるコリ。その正体は部分的な過剰収縮です。自分ではコントロールできない収縮で、肩こりが治らないのも意識的に緩められないからです。意識的に緩められない筋肉は体中にあります。

どうにもできない過緊張は、形状記憶と言ってもよいです。ですから記憶をリセットできなければいつまでも過緊張は残り続けます。この過緊張は動きを制限していまいます。本来、緊張は収縮力ですから骨を動かす原動力となりますが、過剰な緊張は動きを邪魔してしまいます。つまり、体というのはちょうどいい緊張を生み出せるほど思い通りに動けるということです。

過緊張が生じる位置は無数ありますが法則性があります。それを一つ一つ発見していくことで動きとの関係も見えてきます。「こういう動きに制限があるときは、ここに過緊張が見つかる」とパターンを蓄積していくことができます。

ある程度のパターンが見えてくると、求めている動きをサポートするには、この過緊張を解く必要があると推測することができるようになります。逆に、過緊張から動きの問題を推測することもできます。

ここまで述べてきた過緊張はツボの一種と考えることができます。そのツボに鍼をすることで、ピンポイントで過緊張を解くことができます。鍼が過緊張の中心に当たると、過緊張はフワッと緩みます。その緩みを確認したあと、動きをチェックすると可動性の向上を観察できます。

能動的なやわらかさ

バレエには柔軟性が必要だと言っても、ただ関節の曲がる角度が増えればいいというものではありません。柔らかさは、曲げられたら曲がるという受動的な可動性と、自分で動かせるという能動的な可動性に分けられます。

パフォーマンスに必要なのは能動的な可動域です。考えれば考えるほど難解なのが、この能動的な可動域です。日頃の治療目的の施術の経験から気づきを得ていますので、それを説明します。

見えない筋肉

人間の体は実に複雑です。たとえば股関節を曲げる(屈曲)する場合、太ももの前の大腿四頭筋を使うこともできれば、骨盤内にある腸骨筋を使うこともできます。股関節の動きだけに着目するのであれば、同じに見えてしまうのですが動きの内容が全く異なるのです。

わかりやすく簡単に言えば、大腿四頭筋は踏ん張る力です。スクワットで腰を落とすときに耐える力です。いっぽうの腸骨筋は腰の高さはそのままに、膝を引き上げる動きです。膝に体重が乗っている場合(大腿四頭筋)と膝に体重がかかっていない場合(腸骨筋)とに分けることができます。

この大腿四頭筋と腸骨筋でもう少し話を続けます。大腿四頭筋はスクワットのように、左右同時に使うことが得意です。それに対して、腸骨筋は歩行時のように左右交互に使うことが得意です。

まだまだ違いがあります。大腿四頭筋は、股関節を屈曲方向のみに使う場合には活動しやすく、腸骨筋は、股関節を前後に振り子のように使うときに活動しやすいのです。大腿四頭筋は太ももの前面のボリュームにすぐに現れるのでアウターマッスルと呼ばれることがあり、腸骨筋は骨盤内に隠れていて触れることができないのでインナーマッスルと呼ばれることがあります。

どっちにも重要な役割があるのですが、インナーマッスルである腸骨筋は見えず触れられずなのでやっかいです。

初動を操る

ここでバレエの話に戻りましょう。私たちがふだん生活する上では、インナーマッスル、アウターマッスル、どちらも大事なのですが、バレエとなると圧倒的にインナーマッスルが大事になってきます。バレエの専門家ではないので、間違っていたらごめんなさいですが、バレエというのはインナーマッスルを極めようとする身体表現として解釈できるのです。

バレエが表現しようとする内面性は、肉体的にも内側を使うことで表れてくると考えると整合性がとれます。

それでは具体的にインナーマッスルを使う動きとはどういうものなのでしょうか。ここからは私の解釈がかなり入ってくることをお断りします。一言で表すと脊柱から動くということです。脊柱の動きといっても微細なものですから、外見上は動きが見えるわけではありません。むしろ、脊柱から動くほど体幹が安定するので背骨の動きが見えません。

矛盾するように聞こえるかもしれませんが、脊柱が動くほどに脊柱の動きが見えないというわけです。これを別の言い方にすると「体軸が安定する」ということになります。

ここからが面白いのですが、脊柱を構成する脊椎が動くようになるほど仙腸関節の可動性も上がっていきます。逆も言えるのです。仙腸関節の可動性が上がると脊椎の可動性も上がっていきます。これは実験で実証できているわけではないので仮説として読み進めてください。

このように考えると、バレエは仙腸関節の妙技とも言えるのです。ただ、仙腸関節の動きは微細ですから視覚的に捉えることがかなりむずかしいです。

バレエダンサーの線の細さ

一流のバレエダンサーは例外なく細身です。厳しいダイエットの成果であると結論づける前に一緒に考えてほしいことがあります。確かに、食事を気をつけているという前提はあるのですが、アウターマッスルが発達してしまうと線が太くなります。ボディビルダーがそうです。見える筋肉を大きくして競います。これに対してバレエダンサーは見えない筋肉を発達させて芸術性を磨きます。

一流バレエダンサーの線が細いのは、アウターマッスルを使っていない証とも言えます。本質的には、脂肪が少ないことが重要というわけではなく、無駄なアウターマッスルが少ないことが重要であるというわけです。

娘は練習すればするほど脚が太くなってくると悩んでいました。最初から、こうした結論に至っていれば悩ませることはなかったのですが、私も娘のバレエをサポートしながら学んできたので後手に回ってしまいました。

インナーマッスルに注目し、仙腸関節の可動性に着目して施術をした結果、脚が細くなってきました。ダイエットがもたらす細さとは明らかに別物です。

現実的には、生まれながらの体型というものがあって努力だけではむずかしいところがあります。ただ、我が娘がそうであったようにインナーマッスルに着眼することで体型が変化することも逃せない事実です。

バレエ教師にできないことを探す

生意気にもバレエを語ってしまいましたが、私はバレエ未経験の素人です。バレエ教師にはかないません。でもツボについて、そしてインナーマッスルを活性化させるという点においては日々の臨床の中で真剣に考えています。この立場から、バレエのコンディショニングに役立つことを提供できるという確信があります。ですから、これからも娘のサポートを通じて知見を蓄積していく予定です。

本当はもっともっと書きたいこともありますし、逆に企業秘密にしておきたいような発見もあります。これからも親子の取り組みを応援していただけたら幸いです。

次回はバレエの基本である「アンディオール」について考察します。

つづく…

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