<このシリーズでは、鍼灸師であるクリ助が妊産婦さんに何ができるかを考えていきます。お産の現場をできるだけリアルに伝えますので、よいお産について一緒に考えてください。>
鍼灸師とお産(1)←シリーズの初めから読む
鍼灸師とお産(3)←前回の話に戻る
クリ子が体に異変を感じ始めたのは午後10時半頃。
「ちょっとお腹が変・・・?」
でも、様子を見るとそれほど痛がっている様子もなく、本人もまだまだお気楽な状態でした。そんなですから、私はメールの続きを書いていました。ごく普通に。
午後11頃。
クリ子が辛そうな表情をしているので、「休みながら仕事してもいいよ」と休憩をしてもらおうと思いました。そろそろ私も仕事を終わりにしようかと思っていた頃です。
「もしかして陣痛?」
「・・・わかんない。そういえば、おうちでご飯を食べている時に出血があった。」
「え?それって何時ごろ?」
「8時くらい」
「何で言わなかった?」
「少しだったから、言うほどでもないと思って。」
「おしるしの可能性ない?」
「どうだろうね。違っていたら恥ずかしいよね。」
「もうちょっと様子見てみようか…。陣痛じゃないかもしれないし。」
と、しばらく様子を見ることにしたのです。クリ子を治療用ベッドで休ませ、私はメールの続きを書くことにしました。
さっさと終わりにして帰ろうっと。
その時です、強い痛みがクリ子を襲ったのは!!
うう゛ぅ~!
見ただけで普通の痛みではないことがわかりました。
さすがにメールをしている場合じゃないな、と思った私はクリ子に声をかけました。
「クリニックに電話してみようか?」
「お願い!」
その時、クリ子を襲っている痛みは、数分間隔でやってきていたのです。
トゥルルルー!
「妻がお腹を痛がっています。どうしたらよいでしょうか?」
「本人と話せますか?」
「えー、痛がっているので…、たぶん話せないと思います。でも、ちょっと訊いてみますね。」
隣でうずくまっているクリ子に声をかけました。
「話せる?」
「なんとか話せる…」
話せるとは言ったものの、かなり痛そうなクリ子。端から見ると、根性で話しているようにしか見えません。(そんな根性どこにあったんだ?)
助産師さんの問いにクリ子が必死に答えています。結論が出たとみえてクリ子は電話を切りました。
「何て言われた?」
「様子をみてって言われた。」
「じゃあ、様子をみようか。鍼やってみようか?」
「うん、お願い。」
治療用ベッドにクリ子を横向きに寝かせ鍼の準備です。腰が割れるように痛いというので、痛みの局所に鍼をして、筋肉の緊張をゆるめます。こういう場合、普通に診察している余裕はなく、とりあえず無難に痛みの緩和を行いました。というより、それしかできないというのが本音です。痛みに苦しむ相手に、あーして、こーして、とやっている間などないのです。まずは、痛みをある程度落ち着かさせてから改めて診ようという考えでした。
鍼をした直後、痛みが和らぐようです。普通の腰痛ならこれで痛みは治まってしまうはずなのですが、この時はまるで事情が違ったのです。鍼をして痛みが和らぐのは1~2分。その後、すぐに強烈な痛みが襲ってくるようです。むしろ、間隔が短くなった気もします。鍼灸師の直感として、単なる筋肉の緊張からくる痛みでないことは明らかです。脈を診ても、あきらかに違った様相です。
突然、クリ子はトイレに行きたいと言い出しました。もう、鍼している場合ではありません。出産前には排便したくなると聞いていたので、これは陣痛であると確信しました。
おぼつかない足取りでクリ子はトイレに入り、中から声が聞こえてきます。
「血が出てる!」
つづく→鍼灸師とお産(5)


コメント
クリ助さんの直感、素晴らしいです!
そして、陣痛じゃないのに痛いなんて電話したら
迷惑だろうし恥ずかしい、という気持ち、
よ~くわかります。
私も、産婦人科に電話した時、
「あの~、お腹が痛くて、でも陣痛かどうか
よくわからないんですけど、不安だから
電話してしまいました。」という非常に間抜けなものでした。
その電話から4時間後に分娩だったのですけどね。
陣痛って本当に気付けるんだろうか?、と
初産婦は誰しも不安になります。
その時に「普段と違うよ」と第三者が自分の体を
判断(診断?)してくれると、陣痛かも?と思う
自分の感覚に、初めて自信がもてるのです。
ちょっと手に汗握る展開になってきましたね。
ドキドキ。
>(そんな根性どこにあったんだ?)
・・・に思わず声をあげて笑ってしまいました。
私は夫に”お産の時は人格を失うほどもっとおかしくなるのかな
と思ってたけど意外としっかりしてた”と言われたので(苦笑)
母は強しですね・・・。
単なる筋肉の緊張からくる痛みでない・・・から
あることを思い出しました。
実は私、鍼灸学生の時の旅先で腰が痛み
自分で局所に鍼をし、痛みを緩和した経験があります。
しばらくすると再び痛み、あれ?おかしいなと思い病院に行ったら腎盂腎炎でした。私の若気の至りです・・・。
陣痛時の鍼も受け手としては似たような感覚的かな・・・と思いました。
(どこかドキドキはあったと思いますが)
冷静に陣痛を見守る鍼灸師であり夫のクリ助さん。素敵です。
>Chabさん
陣痛でも、産まれそうにないと一旦返されると聞いていたので、そうなったら面倒だな、という心理もありました。
よく夫婦の会話で「頭が見えてきてから行こう!」なんて冗談を言っていたのですが、もう少しで冗談ではなくなるところでした…。その詳細は続きで明らかにしますね。
>なちゅらさん
腰痛にもいろいろですよね。
今回は陣痛かもしれない…という予測があったので、局所の鍼に危険がないと自信をもっていましたが、そうでなければ私はパニックだったかもしれません。あんなに痛がる人に鍼をしたのは初めてでしたから。
陣痛とわかって、局所以外で…、と一瞬思いましたが、もうそんな状況でななかったです。教科書通りにできることは、実際の臨床ではそんなに多くないですよね。このブログではカッコよく書こうなんて思わずに、実際の生々しい現場を書いていきたいと思います。
現場の状況、是非教えて下さい!
そこで鍼師になにができるのか。
>akimoyanさん
私の経験を通じて、鍼灸師にできることを提案していきます。この続きを待っていてください。
コメントありがとうございます☆