過去5年間、一度だけ問診の途中で帰られた患者さんがいました。
不妊治療中の患者さんで、妊娠を望んでおられました。

帰られた理由は、クリ助が妊娠を100%約束しなかったからです。
鍼灸をしたら確実に妊娠するかといえばNO。
100%の努力は約束できても、100%の結果は約束できません。
それが医療の世界。
ただ、それを患者さんに「あなたの治療は100%ではありません」とわざわざ告げることは普通はしません。医療で「100%ではない」が暗黙の了解なのは、口に出したら患者さんの希望を意味もなく削ってしまうからです。
むしろ、最初の仕事は患者さんの希望に火を付けることです。
初診では「好転の兆し」を感じていただくことがクリ助のテーマです。
初診では、好転の兆しをどこから引き出すか、という狙いを決めます。患者さんの負担(時間、経済、疲労)は最小、効果は最大になる方向を探します。それが治療計画というものです。鍼灸師の腕は施術の上手下手だけではありません。この治療計画で大きな差がつきます。
問診の途中で帰られた患者さんに対しては、クリ助の思惑は全く通じませんでした。
100%を求められたことは予想外で、全く手の出しようがありませんでした。
「絶対に妊娠しますか?」
という問いには、
「やってみなければわかりません。」
と答えるしかありませんでした。
最初の問いにクリ助が追い詰められ、クリ助の答えに患者さんが追い詰められる、両者はここから一歩も動けなくなりました。
加えて治療計画を拒絶されることがあったら、クリ助は両手を挙げるしかありません。
「病院の治療とタイミングを合わせてやった方が効率がよいですよ」
と提案しても、
「そんなことはどうでもよいです。私にとっては妊娠が目的ですから。」
と切り替えされてしまうと、クリ助にできる仕事は何もありません。
「鍼灸師は決められた場所に鍼を刺すのが仕事ではありません。」
という言葉を飲み込んで、出口を患者さんに示しました。
妊娠に限らず、結果に100%を求める気持ちはよくわかります。その気持ちに答えたくて仕事をしているのですから。施術の瞬間だけでなく、結果が渋っている患者さんの症状に対しては特に勉強を重ねます。むしろ、鍼灸師の努力は患者さんの見えない部分にあります。
100%の結果を出そうとして最大99%の結果しか出せないのが医療の宿命です。100%があるとするなら、それは「生命のコントロール」の領域に達したものであり、「医療と言えるのか…」という議論に発展せざるを得ません。
鍼灸師も「99%」という宿命を背負っています。時には結果を追究するあまり、自らの命を削ってしまう鍼灸師もいます。クリ助がこの世界に入るきっかけを作った先生がそうでした。
無力だった瞬間は、ずっと忘れないものです・・・


コメント
わかります。その気持ちわかります。
とはいえ、僕はまだまだ栗さんの域には達していないのでわかる部分も一握りかもしれませんが。
鍼にしてもT3にしても100パーセントではないですから相手の気持ちをうまくコントロールすることが大切だなと思います。
技術を追い求めた結果、僕ではなく、他のカウンセリングを重視した施術者のほうが患者さんが喜んでくれたことがありました。
なので一番大切なのは技術ではなく気持ちなんだなと思います。
ゆえに活法秘伝五箇条は大切だなと身をもって体感させていただきました。
私も同様なことがありました。糖尿病から腎症へとなりつつある方でした。その方は以前に数回、私の治療を受けられて、あまり合わないといって止めてしまった方でした。症状が少し悪化し「あの時の治療の方が良く効いたから」といって再来院。しかし症状はさらに悪くなっている。問診の段階で「先生の鍼治療をすれば治りますか?」と言われたため、私は「では私の言う事を全て聞けますか?」と治療間隔、日常での養生などかなり細かく伝えました。結果は、言う事が聞けないということでしたので、治療をお断りしました。私は自分のことを私に投げやりにするのではなく、今の現状では相当な覚悟と養生などを共に行なっていかないと、良い結果はでませんといいたかったのですが、それが伝わりませんでした。栗さんの言うとおり、最大の努力はしますが、その結果が100パーセントにはならないことは多々。一方通行の治療では何の効果も発揮しません。
無力な日々は今も続いています…。
>AKIさん
でましたね、活法秘伝五箇条!
技術と気持ち、深い問題ですよね。
患者さんからみても、施術者(鍼灸師)からみても大事なところですね。
しっかり考えてゆきたいと思います。明るい未来を見ながら(笑)
鍼灸師にとって、カウンセリングとは・・・
次の記事で考えてみたいと思います。
>てっかんさん
一言で表せば、問題は「二人三脚」でやっていけるかどうか・・・
だと思いました。
おっしゃるように、一方通行ではよい結果が生まれませんよね。
特に鍼灸のような施術の場合、患者さんの状態(環境、体調)に合わせて施術内容を調整しますので、患者さんの協力が絶対に必要ですし、その協力次第で劇的な効果が得られることも!
どうしても協力を得られないと分かった場合、施術を断ることも必要なのかもしれません。仕方ない時、途中でさじを投げるより、最初からお断るする方が患者さんのため、という場合もあるような気がします。
また、ご意見やエピソードありましたらお願いします。
残暑がきついですね。
最初の問答を読んでいて「対立」が起きてしまっているなあと感じました(笑)。
相手の間合いに入ってしまうと殺られますよね。
>>「そんなことはどうでもよいです。私にとっては妊娠が目的ですから。」
何がこの女性をここまで追い詰めてしまったのでしょうか?産めない女性は石女だと言われたのでしょうかね。
私がこう言われたら、まずカウンセリングから
始めるかもしれません。
患者の言葉からも心が病んでいることは明らかですよね。
身体よりまず心を安定させる必要がありそうです。
口では不妊治療を受けたいといいつつ、もしかしたら一切の不妊治療を止める口実を求めていたのかもしれません。
「あそこの鍼灸院でも駄目なら諦めよう」と。
治療に限りませんが、始めるのは簡単でも止めるのって難しいんですよね。
不妊治療に疲れていたのかも。
なんとも難しいですが、「治療そのもの以前の問題」ってあるんですよね~。
まさに「対立」していたと思います。
患者さんの気持ちと私の気持ちが衝突していました。
同調していかななければならないのですが・・・
私には難しかったです。
「もう少し話を聞いていただけたら…」と思うところがありますが、患者さんも同じだったのだと思います。結果を出すという目的は同じだったのに残念でした。
おっしゃるように、患者さんの心はだいぶ病んでいたと思います。話をしていて、こちらも苦しかったですから。実は、この時、こちらの体にも異変が起きていました。呼吸が苦しくなって、声は出なくなるし…。鍼灸師は鍼や灸を上手にするだけではダメですね。この事例を糧に総合力を上げたいと思います。
まーあんまり重大に考えるなよ
>針さん
すばらしいコメント!!!
重大に考えずに対処できる能力が必要ですよね。