鍼灸師の「北斗神拳」考(1)

北斗の拳 集英社文庫

■北斗神拳とボク

いつか向き合おうと思っていたテーマ。
それが北斗神拳。

北斗神拳は、マンガ『北斗の拳』のケンシロウが繰り出す拳法で、経絡秘孔(けいらくひこう)≒ツボを突くと敵は破裂して死んでしまいます。暗殺拳と言われる割には、体が爆発するので誰が殺したのかすぐにわかってしまいます。

ケンシロウと言えば、

「お前はもう死んでいる」

というセリフがあまりにも有名です(私の世代の男子にとってはね)。

経絡秘孔を突かれた瞬間は何が起こったのかわからないようで、ケンシロウに再び襲いかかろうとするのです。無駄を告げるためにケンシロウが発するのです。「お前はもう死んでいる」と。ケンシロウの言葉通り、敵は体に異変が起こって死んでいまいます。「異変」と書きましたが、本当はそんなものではありません。体が爆発してグッチャグッチャです…。

ハッキリ言って暴力シーンばかりのマンガですが、根底には愛があります。ギャグも散りばめられています。80年代の作品です。今読んでも色あせを全く感じません。

80年代の私は小学生。『北斗の拳』がアニメ化されると、すぐに秘孔ブームが到来しました。指先で友達の体を突っついて遊ぶのですが、過激なシーンに発展するわけではなく、ただのくすぐりっこで終わりました。そのチビ助がクリ助となってツボを突いて生活することになるとは。

鍼灸師には北斗神拳に影響を受けた人がいます。30代の鍼灸師はあやしいと思ってください。その一人がここにいます。

北斗の拳が流行った頃は、まだ「鍼灸師」という職業は知りませんでした。私が鍼灸師になろうと思い立ったのは高校生で、それまで鍼灸を受けたことがありませんでした。

鍼を受け、記憶の奥に眠っていた北斗神拳が目を覚ましました。鍼灸師になったのは「(病院ではよくならなかった症状が)鍼灸でよくなった!」と一応説明していますが、その感動だけで進路が決まったわけではないと思います。やはり、北斗神拳の仕業ではないかと。小学生の時、テレビ越しに経絡秘孔を突かれていたようです。

プロフィールには「『北斗の拳』に影響を受けて鍼灸師になりました。」とは書きません。書かない方がいいと思うのです。イメージが大切ですから。それに、『北斗の拳』は、ある世代を除いて意味不明です。フレッシュな鍼灸師は『北斗の拳』をどう思っているのだろう…一度シンポジウムをせねばなるまい(笑)

■トキの夢

主人公のケンシロウにはトキという兄がいます。トキによって、北斗神拳が活殺自在であることが印象づけられています。経絡秘孔と呼ばれるツボは、病気やケガの治療にも使えるのです。活かすも殺すも自由自在という発想は、日本の武術にも実在します。

トキが滞在した村は「奇跡の村」と言われるようになります。

村の近くまでやってきたケンシロウに一人の老人が言います。
「その村の病人すべてを触れるだけでなおしてしまったんだ!まさに奇跡さ!!」と。
(乱を呼ぶ星の巻より―文庫版第3巻)

北斗の拳 3 (集英社文庫―コミック版)
原 哲夫 武論尊
4086172852

さらに、作者はトキのスゴ技を強調するために、このように説明しています。

「かれが体の一部を押すだけで
 歩けぬ者は立ち上がり
 口をきけぬ者は
 歓喜の声をあげた!!」

(乱を呼ぶ星の巻より―文庫版第3巻)

トキがケンシロウに夢を語る回想シーンでは、

「この世には病に悩む人間がなん千なん万といる
 おれは拳法家としてより北斗神拳を医学のひとつとして活かしたいのだ」

(乱を呼ぶ星の巻より―文庫版第3巻)

トキの言葉は、鍼灸師となっている今の方が大きな意味を持ちます。「殺す」と「生(活)かす」は表裏です。

よく効く鍼灸は、良くも悪くも作用するわけです。悪く作用するといっても、「ひでぶ」することはありません。「あべし」もありません。意味不明な方は読み流してください。

「悪く作用することがある」という話を患者さんにあえてする必要はありません。不安にさせるだけですから。「良くはなっても悪くなることはない」と言う鍼灸師も多いと思います。実際、普通に施術する限りその通りです。

「悪く作用する」というのは、薬の副作用とは全く違います。副作用は、薬の作用を、そのときの症状や病状からみて都合のよい働きが「作用」、不都合な作用が「副作用」です。

鍼灸には「作用」と「副作用」という考え方がありません。

良くなるか、変わらないか、悪くなるか、です。

鍼灸には数多くの流派がありますが、どこにも共通するのは「患者さんの体に合わせた施術」を目指していることです。オーダーメイドな感じです。患者さんに合わないことをすれば、症状は悪化します。

活殺自在という原理からすると、高い効果を出す鍼灸師ほど、悪化させる術も得ていることになります。だからといって、腕のよい鍼灸師を怖がる必要はありません。腕のよいシェフがあえてマズイ料理を出すことがないように、腕のよい鍼灸師があえて悪化する鍼灸をすることはありません。

北斗の拳考はまだまだ続きます。
北斗の拳を背負ったまま年を越します。

つづき

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コメント

  1. てぐ より:

    ついに北斗神拳キタ~!!
    クリ助さんの中には「北斗の拳」の熱い血が流れているのですね!!
    まさしく You are Shock!! \(^O^)/
    専門学校時代にクリ助さんと北斗の拳のタイピングソフトで一緒に遊んだのは楽しい思い出です。しかし、クリ助さんがこれほどまで北斗神拳に熱いとは思っておりませんでした。てっきりマンガの一つとして面白がっている程度かと…うーむ…私にクリ助さんの内面を見切る力量がなかったようで…(-_-) そんな自分がかなり残念!!
    かく言う私も、少年ジャンプで北斗の拳に燃えた世代です。クリ助さんより年齢は上のため、北斗神拳ごっこをすると女子が引くのでやりませんでした (*^_^*)
    しかし、男の友人達とは一緒にジャンプを見て、大いに盛り上がりました。もちろんアニメも毎週見て、感動したり笑ったりしたものです。
    同期生の人で、新入生歓迎会の時に学校に入った動機を「トキになりたかったから」と書いた人がいることはご存じでしょうか?あれは誰だったかなあ…失念してしまいましたが、当時の私は、「おお!こいつすごい!」と内心感動したものです。
    閑話休題、劇中でトキが語った「殺」⇔「活」の表裏一体…私も大いなる影響を受けました。私自身、武道に真剣に取り組んだ時期があったので、「殺」法を「活」かす技術に転ずるということにロマンを感じたものです。
    全ての鍼灸師はトキのようであってほしい、トキを目指してほしいです。私は今は現役ではありませんが、せめてトキのような人間でありたいと思っています。
    間違ってもアミバになってはいけませんね(笑)。

  2. てぐ より:

    訂正:×You are Shock!! ⇒◎You は Shock!!

  3. てぐ より:

    追伸:今年は本当にお疲れ様でした。来年のクリ助さんのさらなるご活躍を陰ながら見守らせていただきます。
    来年も公私ともにご多忙な日々が続くかと思いますが、お体にはくれぐれもお気をつけて。
    クリ助さんはトキのように病に倒れてはならない存在なのですから。

  4. クリ助 より:

    >てぐさん
    熱いコメントありがとうございます!トキはやはり特別な存在になっているようですね。タイピングソフトで遊びましたね~。懐かしいです。兄ラオウを倒せるタイピングの勢いでブログは書きたいものです。
    トキになりたかった同級生…誰だったかな。私も失念、残念。
    鍼灸師にしか書けない北斗神拳を目指して話を続けます。引き続き、お付き合いください。
    てぐさんもお体に気をつけてください。そして、よいお年をお迎えください。

  5. umetarou44 より:

    明けましておめでとう御座います!
    『良くなるか、変わらないか、悪くなるか、です。』
    今の私の悩みどころです。
    2月に国試を受け、春には鍼灸師になります。
    未だ、私の鍼がどうの様な影響を与えているのかわかりません。
    患者さんには善くなって欲しいのですが、自分が何やっているのかわからないって、とても辛いですよね。
    クリ助先生はどうやってその時期を乗越えたのですか?

  6. クリ助 より:

    >umetarou44さん
    国家試験の準備でお忙しい頃ですね。「鍼の影響を知りたい」というumetarou44さんのお気持ちがよくわかります。「乗り越えたのですか?」と問うていただきましたが、まさしく乗り越えたと言えます。
    umetarou44さんと全く同じ心配をある時期まで抱いていました。その心配はいつまで続くのだろうかと不安な時期が確かにありました。
    私の場合は、脈診よりも触診を重視したら克服できました。脈診批判ととられてしまうといけないので、きちんと説明します。私にとって脈の変化から術の前後の変化を確かめるのは私の感性的に不安でした。一旦、脈診を頼りにするのはやめて、誰が見てもわかる簡単なものはないかと探し続けました。試行錯誤の結果、触診で判断する方がラクだと気が付きました。もっとも得意としているのが腹診。その次によく観るのは、頚から肩まわりの変化です。頚診、肩診という言葉はありませんが、頚や肩の変化から鍼の効き目を評価しています。独自のものばかりです。
    抜け出るきっかけとなったのは、苦手と思う脈診を参考程度までランクを落としたことです。
    umetarou44さんが一番わかる変化を追いかけて研究していくとどんどんわかるようになると思います。

  7. umetarou44 より:

    クリ助先生、有難う御座います。
    自分で評価の仕方を身につけるって事ですよね?
    物凄く目から鱗のアドバイスでした。
    私は、師の影響もあり尺膚診を用いることが多いです。
    患者といっても、友人や妻に練習台になってもらう感じですから、本当の患者と向き合ったことがないという不安もあります。
    数ある診断法の中で、割と得意な尺膚診に磨きをかけていきたいと思います。

  8. クリ助 より:

    >umetarou44さん
    自分で評価の仕方を身につける、そうですね。
    蛇足かもしれませんが、補足させてください。
    施術時の話ですが、治るかどうかをその場で判断できなくてよいと私は思っています(神ではないので)。
    私たち鍼灸師が患者さんが関わる意義って、ターニングポイントになることだと思うのです。体が変化したことさえ評価できればよいのではないかと。治るか治らないかは、転換したあとで語るので十分なのでは、というスタンスです。転換が軽々できたのであれば治りは早いだろう…と単純に考えるようにしています。
    治るのは転換による結果。
    私たち鍼灸師が転換のきっかけになることはお金を頂く以上責任を持たなければいけませんが、治す人になる必要はないと思っています。こう考えることでプレッシャーから解放されました。
    患者さんは、治る兆し(変化)があったところから安心が芽生えると思います。その安心に施術者(鍼灸師)が乗っかっていくこともアリかなと思います。そういう意味からして、術者自身が感じ取れる変化に加えて、患者さんも変化を感じ取れる判断基準があると強みになるはずだと考えています。
    尺膚を使われるんですね。私も使います(笑)

  9. umetarou44 より:

    クリ助先生、返信有難う御座います。
    結果、結果と非常に焦っていました。(反省)
    治る兆し(変化)を感じ取れるように感性と心構えを身につけていこうと思います。
    先生も尺膚診されるのですか!?
    お会いしたこともないですが、この出会いは偶然ではないのかもしれませんね。
    何時の日か、必ずお会いしたいです。
    感謝!

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