鍼灸師の「北斗神拳」考(2)

(1)のつづき

ケンシロウ

■北斗神拳創始の秘密

『北斗の拳』の魅力はなんだろうか。強い男の格闘技を描いているだけではありません。ファンの多くは、経絡秘孔(けいらくひこう)にロマン(?)を感じていると思うのです。やはり、ツボあってこその『北斗の拳』です。

普通、拳法は外部から肉体を破壊するものですが、北斗神拳は内部から破壊することができるのです。この発想がどこからやってきたのか知りませんが、鍼灸を参考にしたことは間違いないでしょう。

経絡秘孔の名前は、実際のツボをいじったものが多いです。私たちがよく見る経絡経穴図とそっくりなものが描かれているページがあります。(『北斗の拳』集英社文庫 3巻P.264)

北斗神拳は約1800年の歴史があると説明されています(アニメでは2000年)。中国で生まれた拳法です。真面目な話として、ツボは少なくとも2000年前の中国では認知されていました。ですので、北斗神拳が1800年の歴史であるというのは妥当であると思います。

もし、3000年の歴史と設定されていると「鍼灸より北斗神拳が先なの?」と突っ込みが出てきます。北斗神拳は一子相伝であるため、北斗神拳が鍼灸に影響を与えることはできないのです。ですから、北斗神拳は鍼灸にインスパイアされて生まれた拳法であると言えます。

創始者のシュケンは、ツボで病気やケガが治っていく様子を見てひらめいたのでしょう。使い方を逆転させれば体を破壊できるだろうと考えたに違いありません。そして完成したのが北斗神拳!

秘孔を突く指が第一関節までズボッとめり込んでいることを考えると、影響を受けたのは灸ではなく鍼の方でしょう。鍼灸師が用いる本物のツボも鍼をするポイントとして発見したと思われます。実際には、流派や鍼灸師の采配によって鍼と灸が使い分けられます。

『北斗の拳』の物語では、終盤にケンシロウが自分の髪の毛を鍼のようにして、胸鎖乳突筋上にある秘孔を突いています。鍼治療そっくりです。(『北斗の拳』集英社文庫 13巻P.175)

■アミバは天才か?

秘孔はただ突けばよいわけではありません。突いた指から気を送ることがわかる場面があります。体内を破壊するには、単に突くだけでなく気の扱い方が重要なようです。

これが如実に表れているエピソードがあります。ケンシロウがアミバというトキのニセモノに秘孔を突かれてしまった時のことです。動けなくなったケンシロウは秘孔の効果を封じ込めることに成功します。

「もし… もし本当のトキがおれを突いたのなら いかにおれでも秘孔を破ることはできん!」
(『北斗の拳』集英社文庫4巻 悲しき天才の巻)

というセリフを吐きます。

同じ秘孔であっても、使う者の腕によって効果が違うことを示しているわけです。

気の扱い方がトキとアミバでは違うことになります。トキとアミバの差がどこにあるのでしょうか。才能の差?

アミバは間違いなく天才であると思います。見よう見まねで、常人とはかけ離れた強さを得て、新しい経絡秘孔まで発見しているのですから。アミバは「自分を天才と思いこんでいる」という解釈もあるでしょうが、私は本当に天才であったと考えます。

■トキとアミバの決定的な差

トキも北斗神拳の伝承者候補でしたから、ケンシロウと同じ専門教育(死んじゃってもおかしくないようなスパルタ特訓)を受けています。そのトキとアミバでは、体に刻まれた記憶の絶対量が違います。

リアルな世界に戻りますが、ツボは「場所を覚えれば使えるもの」と勘違いされることがあります。ツボを覚えるのは、料理に喩えるなら、調味料の名前と味を記憶するようなこと。それだけで美味しい料理は作れませんよね。

5年くらい前、料理本を出した芸能人がトーク番組で、「私は一度食べれば、その味を再現できます。」と語っていました。アミバを思い出しました。これをアミバ発言と勝手に名付けました。

想定する次元(食べてもらう相手)によっては、彼の発言は正しいのだと思います。批判はしたくありませんが、勘違いだと思います。マネゴトとホンモノの区別ができないアミバと同類です。態度までアミバそっくりだったのを覚えています。最近はどうしているのでしょうか。テレビで見かけなくなりました。

本当の技術は、「体で覚えるもの」であって、積み重ねでしか得られないと思います。それは天才であったとしても例外ではないはずです。トキとアミバの差は、体に刻み込まれた記憶の差にあると思います。

 アミバから得た教訓 「コツコツやっているやつには勝てない」

大事なことなので書き添えますが、才能だけで比べてもアミバはトキとケンシロウには遠く及ばないでしょう。ケンシロウは戦うトキの姿を見て想います。「トキは北斗1800年の中で、最も華麗な技を持つ男」と。トキは北斗神拳伝承者の最有力候補であったとも言われています(病気になり外れた)。

一方、ケンシロウは戦った相手の奥義を度々盗んでいます。アミバと違って完成度は高いと思われます。

ケンシロウは言います。

「おまえたちは北斗神拳がなにゆえ一子相伝の最強の拳法なのか知らない!それを教えてやろう!!」と言って、強敵の技を繰り出します。(『北斗の拳』集英社文庫5巻 南斗白鷺拳!乱舞!!の巻)。

「強敵」と書いて「とも」と読む

このパクる技法にもきちんと名前が付いています。「水影心(すいえいしん)」と。北斗神拳はパクることに罪悪感はありません。さすが最強の暗殺拳です。この水影心は、私がもっとも魅力を感じている北斗神拳の奥義です。

■よこしまな気持ちが人類の大発見に!?

物語の終盤には、北斗神拳とほぼ同時に創始された「北斗琉拳(ほくとりゅうけん)」も出てきます。琉拳のツボは、秘孔(ひこう)ではなく破孔(はこう)と呼ばれています。破孔には驚くべき作用を持つものがあります。死環白(しかんはく)と呼ばれるものです。

その破孔を突かれると、意識を失うと同時に記憶と感情まで奪われてしまうものです。それだけではありません。目覚めた時に初めて見た男を無条件に愛してしまうという、とんでもない作用があることです。男のスケベ心から生まれた(勝手に断言)この破孔が、北斗神拳でなくてよかったと思っています。

北斗神拳には、一時的な記憶だけを消す「頭顳(ずしょう)」という秘孔があります(『北斗の拳』集英社文庫1巻 KINGの逆襲の巻)。こっちの方は、存在する意味が何となくわかります。

楽しくなってきたので、もう少し続けてみます。

つづき

人気ブログランキングに投票
人気ブログランキングに投票

コメント

  1. てぐ より:

    文献(私が持っているのは編集:ホーム社、発行:集英社で文庫ではないのです)を一つ一つ当たっていたらこんな時間になってしまったじゃなイカ! くコ:彡 ←イカです…いきなりクリ助さんのパクリで失礼!今回はパクリもテーマの内なので…。
    突然近況報告ですが、年賀状頂きました。ありがとうございます。私のは元旦に届いていないかもしれません。すみません。年末体調を崩したもので…今日、元旦からいきなり誓ったのですが、来年の年賀状は、今年の11月から体調が良くて書けるときに一気に書き上げ、必ず元旦にお手元に届くようにします。よほどの人生の転機でも訪れない限りは、そうします。ここに宣言したいと思います。

  2. てぐ より:

    閑話休題。今回はアミバとトキ&ケンシロウの違い、特にアミバの問題点がテーマかと推察いたしました。
    「ふふ…ケンシロウ あれはいい木人形(デク)になる。おれの手で北斗神拳は生まれ変わるのだ!!」
    と、アミバがポーズを決める名(迷?)シーンですね。バックに専門学校時代に必死で覚えた経絡経穴図(ちょっと本物とは違うようですが)が出ていますね。専門学校の経絡経穴概論…経穴の名前、取穴の部位、筋肉神経との関係、作用、さらにそれらのつながりである経絡…必死に暗記しました。私は何でもパソコン(=一太郎)で資料を作るのが好きなので、必死でしたけれども、反面、すごく楽しかった思い出として残っています。当時はまだMS-DOSだったのて、自分でツールを使って外字を作ったりして…懐かしいです。
    クリ助さんの仰る通りで、北斗神拳を作った武論尊先生と原哲夫先生は、鍼灸の理論を見事に劇画上の暗殺拳として昇華していますね。その発想たるや、見事としか言いようがありません。
    で、アミバなのですが、TVで「アミバ発言」ですか…笑ってしまいました (^_^) 実在してたのですね。そんな人間が!前日のコメントで、私は「アミバになってはいけない!」と思いを吐露したというのに…芸能人の料理で良かったです…。

  3. てぐ より:

    しかし、TVには決して出ませんが、
    「おれは天才だ!!」
    と公言する鍼灸師を私は知っています。大変悲しいことです。いるんですよ。アミバな鍼灸師が…。
    その人とアミバの共通点を私は私なりに見いだしたのですが、
    「基本をおろそかにして、自分で勝手に色々取り入れて曲がったものを作り上げて自己満足に浸っている」
    ということです。
    アミバは元々南斗聖拳を学んだ男。なのに南斗聖拳を極めようとせず、中途半端に対極であるはずの北斗神拳をパクり、トキにその半端さをたしなめられたために、ますます根性が曲がって、トキになりすまして治療という名の人体実験をしていましたね。
    確かにアミバは器用な男です。南斗と北斗を両方できるとは大したものです(…ん?ジャギもそうだったような?それはさておき…)。ある意味天才と言えるでしょう。しかし、そういうのは器用貧乏と言うのではないでしょうか?
    アミバは本当に空しい男です。どうあがいても、生まれ落ちたときから北斗神拳の修行を開始しているトキやケンシロウにかなうわけがないのです。

  4. てぐ より:

    去年の暮れ、mixiの同期生の間で、「高校、大学、その他留学などと回り道せず、中卒・高卒から鍼灸をひたすら修行したらどうだっただろうか?」ということが話題になりました。考えていることは皆同じなのかな、とそれを見て思いました。むろん、それは極論で、実際にはありえない例え話です。最低高卒で専門学校で3年間必要単位を履修しなければ国試を受けられませんから。それに、私は回り道もいいのだと思います。私の勝手な生意気を言えば、鍼灸治療は総合的な人間力だと私は考えています。鍼灸の場合、純粋培養では、うーん、どうかな?と。
    ただ、大事なことはやはり「とことん続けること」。幸い、北斗神拳と違って、鍼灸はある程度人生の回り道をしてきた人でも、始めてからコツコツ頑張れば、道は開けるし、実際、そういう議論をしていた同期生達は皆立派に道を開いています。それでも現状に満足できない向上心が、仮定の話として北斗神拳のように鍼灸を学びたかったかのような心境を吐露させたのでしょう。
    何だか、「おまえが言うな!」とどこかから怒りのクレームがつきそうなことを書いてしまいました。今の私の現状は置いておいて、あくまで今の私の理想、そうあるべきだ、そうあるべきだった、と思って頂ければ幸いです。
    北斗琉拳に関しては…しまった!もう日付が変わってしまう!
    最後に、クリ助さんは今も一太郎とATOKを使っていることを知り、とても嬉しく思いました。私も去年、5年ぶりにバージョンアップして、一太郎2010を使っています。

  5. てぐ より:

    ちょっと張り切りすぎてしまいました…orz すみません>クリ助さん並びにこのブログを見ている皆様

  6. クリ助 より:

    >てぐさん
    あけましておめでとうございます!
    てぐさんの年賀状、元旦に年賀状届きましたよ。ありがとうございます。
    懐かしい話がたくさん出来てましたね~。コツコツって、回り道を嫌がらないことかもしれませんね。アミバは技術をショートカットして得ようとした結果、中途半端なものしか得られませんでした。
    習得の効率を考えることは必要なことだと思いますが、量が絶対的に不足していては効率も何もありません。学生の時は練習量、鍼灸師になったら実践量が大切だなぁと思います。学生時代の話もでたし、学生の方にも読んで頂けているので、一つ言いたいことがあります。学生時代は学生時代にしかできない練習というがあるので、時間を惜しまず練習して欲しいなと。
    アミバの実験とは意味が違いますが、学生同士では「この感じどう?」と素直に質問できて、率直な感想がもらう練習ができます。鍼灸師になってしまうと、いろいろな遠慮が入って学生時代のようにピュアな関係が難しくなります。
    てぐさんたちと過ごした3年間の学生時代が本当に懐かしいです。あの頃も楽しかったです。
    てぐさん、ATOKにも反応していただけて嬉しいです。細かいところまでありがとうございます。ちなみに、冒頭の写真は手持ちのフィギアをこの記事のために撮影したものです。

  7. てぐ より:

    >クリ助さん
    年賀状届きましたか!29日に必死で書いて出した甲斐がありました。
    よかった。ほっとしました。
    ところで、投稿した後、mixiの議論のログを確認したのですが、「人間力」という言葉は今臨床に取り組んでいる同期の方から既出でした。
    それに気づき、ずっとショックで放心状態になっていました…。
    しかし決してパクりではありません。去年の夏の終わりから出てきた、私の内なる言葉だったのです。
    mixiとこのブログを両方見ておられる方もいらっしゃると思いますので、ここに弁明させて頂きます。
    その方と思いが一致していたのはとても嬉しいのですが、今後他所の話題を引用するときは、重々注意いたします。

  8. クリ助 より:

    >てぐさん
    既出の言葉であることは気にされない方がよいと思います。偶然同じ結論に行き着いただけですから。アミバネタ≒パクリネタで楽しんでいただけに、神経質になってしまったのでは?
    鍼灸治療に「人間力」が大事というのは、なるほどと思います。患者さんと鍼灸師の距離は近しですし、触れている時間も多いですから、勘のよい患者さんは鍼灸師の人間性まで見抜いてしまうでしょう。でも、「できた人間」になるのはできそうにないので、個性を伸ばして勝負しようと思います。

タイトルとURLをコピーしました