鍼灸師の「北斗神拳」考(3)

(2)のつづき

『北斗の拳』1~15巻(集英社文庫)

■北斗神拳は本当にフィクションなのか

鍼灸師をしていると、「あんなことできるんですか?」と、本気を思わせるような表情で訊ねてくる方がいらっしゃいます。「あるわけねーだろ!」と下品に返してしまったら面白くありません。せっかくなので、真面目に紳士的に答えようと思います。

北斗神拳の内部破壊のエネルギーはどこから来るのしょうか。内臓が飛び出るほどのエネルギーはがあるとするなら、循環器系暴走するのでしょうか…。もし、そうだとすると血管の破裂です。瞬時に発生する超高血圧状態です。

体外に飛び出るほどのエネルギーを生み出そうとするならば、心臓を拍動数が上がると同時に血管収縮が起こらなければなりません。自律神経という言葉で説明するならば交感神経が優位な状態です。でも、いくら交感神経が優位といっても体の外まで飛び出ることはありません。

血管が破裂する病気はあります。脳内出血、食道静脈瘤破裂など。

ただ、それは北斗神拳の秘孔(ツボ)を突かれた後の様子とは異なるものです。血管の圧力がその周辺組織を破壊するためには、どれくらいの圧力が必要なのか…そんな計算をした人はまだいないと思います。

私もやりませんし、できません。道からそれた人体実験をしない限り、元になるデータも収集できません。つまり、その圧力を計算することは誰にもできないのです。もし、計算できたとしても、心臓のポンプの圧力と、要求される血管壁の頑丈さは常識をはるかに越えるのは間違いありません。

血管に圧力をもたらすのは心臓と血管収縮だけではありません。筋肉も関わっています。体に酸素と栄養を運んで心臓に戻ってくる静脈の血液は、主に筋肉が収縮する時の力を借りて心臓に戻ります。何にせよ、静脈のすべてを筋肉が取り囲んでいるわけではありませんから、血管周辺の組織に甚大なダメージを与えうる圧力にはなりません。

つまり、循環器系の暴走で内部破裂するなんてことはあり得ません。北斗神拳が実在しないからこそ、鍼灸師は安心してツボに刺激ができると言えるのです。もちろん、指圧師もそうです。

秘孔(北斗神拳で使うツボ)が実在したら困ります。
もし、「ん!? 間違ったかな?」とツボが違ったら、とんでもないことが起こってしまいます。

安心してください。北斗神拳はフィクションです。あの世界はあり得ません。もちろん鍼灸は安全です(この記事はネタですからね)。北斗神拳は人体の構造をよく知らない漫画家が作り出した空想です。

■点穴、もしかして秘孔?

「北斗神拳」考を書きながら、中国には「点穴」というのがあることを知りました。ウィキペディアによると、「全身に存在する特定の経穴を衝いて、経脈を遮断する技。内力の循環を止め、各種の身体機能を封じたり、命を奪う作用がある。主に攻撃や止血、毒が回るのを防ぐために用いられる。」とあります。

これって、まさか北斗神拳!?

と一瞬思ったわけです。
経絡秘孔の発想の原点はこれか・・・可能性があると思います。

関連動画もありました。
けっこうエグイ動画です。やられた人が本当に苦しそうです。
(忙しい方は、一人目は40秒、二人目は2分10秒から見てください。)

中国語がわからないので、詳細は説明できません。
カンフーで伝説の「点穴」を体験』という記事には、日本語で体験者の感想が書かれています。ここに書かれているような激痛と息ができず声がでない状態をヒントに推測するならば、横隔膜に大きな衝撃が入ったと考えることができます。

横隔膜が突然機能しなくなれば、激痛になるであろうし息もできません。そうなっても技をかけると一瞬にして元に戻ることからもそう思います。しゃっくりは横隔膜の痙攣ですが、もし「ヒクッ」となった瞬間が続いたら、こんな感じではないかと思うのです。

動画のようなことができるなら、恐ろしい技です。
ただ、動画で発見した点穴は北斗神拳の秘孔とは違うようです。

東洋医学では「不通則痛」という言葉があります。
痛みの原因は、循環が遮断された時に起こるという意味です。

鍼は、この「不通」を「通」に変える技術です。点穴とは正反対です。

つづく

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コメント

  1. sano より:

    点穴の瞬間が、中医学の先生がやる、片手刺しにそっくりですね。ダイナミックというかw
    中医学でやる以上はガンガン響かせるのが基本のようですね。日本人には痛いし、きついと思いますが・・・。
    でも、中医学のポテンシャルを100%出すには必要な刺激ではあるんでしょうね(汗

  2. クリ助 より:

    >sanoさん
    お、そう見えましたかぁ。私は中医学の手技と重ねて観る余裕がなく、被験者の表情を見て、こちらまで「あ゛がうがぁ・・・」となっていました(笑)

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