プレーンな技術にニーズはあるのか?

プレーンな技術にニーズはあるのか? 鍼灸

〇〇式はすごいのか?

世間は「独自の技術」という言葉に弱いのでしょうか。それとも、標準的な技術の方が安心されるのでしょうか。なぜ、こんなことを気にしているかと言いますと、「〇〇式」という方法が多いと感じるからです。鍼灸に限らずかもしれません。

仲間の鍼灸師から聞いたところによると、コンサルも「〇〇式」にした方が患者さんが集まりやすいと指南しているようなのです。ということは、やはり患者さんは独自の技術を望んでいるのでしょうか。

私の仮説はこうです。

鍼灸師の上手さを測る共通の指標はありません。だから、独自の技術を考案できる人は技術力も高いはずだ、と考えてしまうのではないでしょうか。

この記事で問いたいのは「〇〇式」の是非ではありません。標準的な鍼灸治療にニーズがあるのかを深掘りすることです。

ふつうの鍼灸はどこで受けられるのか?

私が患者さんだったら、特殊な鍼灸の前にふつうの鍼灸を受けてみたいと思う気がします。ふつうの上手い鍼灸師を探そうとするでしょう。しかし、私は鍼灸業界の人間です。その「ふつう」を探すことが、実は難しいと知っています。

なぜ「ふつう」がないのでしょうか。制度の中で標準的な治療方法が定められていないからです。学校では標準治療を習うのではなく、安全に鍼施術ができるように基礎医学と実技を学びます。衛生管理もきっちりやります。

東洋医学に関する教科書もあります。ただし、「東洋の医学」は対象が広く、歴史も長いため、理論や解釈もさまざまです。一人ひとりが勉強はするものの、実際の現場でどれを使うかは各々に任されています。

治療方法が一本化されていないこの状況をよいと思うか悪いと思うか、立場によって意見は異なります。

鍼灸の保険適用をさらに広げたい人たちからすれば、標準化の方に舵を切りたいはずです。鍼灸師によって治療内容が大きく異なる状況では、保険制度の中で治療の妥当性を評価することが難しくなります。一定の基準を設け、治療の内容や効果を説明できるようにする必要があります。

ただし、標準化と治療方法の一本化は同じではありません。安全管理や効果の評価方法を共通にすることと、全員が同じ方法で治療することは別の話です。

逆に言えば、保険適用を重視していない人たちからすれば、治療方法そのものを一本化するメリットが見つかりません。一本化したら教育現場は楽かもしれませんが、それを理由に意見が固まる未来は想像できません。

多様性に価値あり

日本の鍼灸は多様性が魅力です。理論や手法を一本化してこなかったからこそ、多種多様な方法が残っています。もし一本化することになれば、魅力ある方法まで政治的な力関係によって排除されるおそれがあります。どの方法を残すのか、という話し合いで結論が出ることはないからです。

治療方法そのものの一本化を諦めれば、多様性こそが日本鍼灸の価値だと言えるようになります。私は完全にその立場です。

もちろん、安全管理や治療効果の評価には共通の基準があった方がよいでしょう。しかし、それぞれの鍼灸師が同じ理論を使い、同じツボを選び、同じ手順で施術する必要があるとは思いません。

患者さんからしてみれば、わかりにくくて仕方ないわけですが、手間を惜しまずに鍼灸院を探していただくほかありません。

最初に訪れた鍼灸院が期待したほどではなくても、別の鍼灸院ではピタリとはまる可能性があります。ですから、鍼灸院を探すときは、通える範囲で何軒かリストアップした方がよいでしょう。同じ鍼灸院であっても鍼灸師によってやり方が違う場合もありますから、担当を変えてもらえるならそれも手です。ただ言い出しにくいと思います。

飲食店に置き換えて考える

この状況は、飲食店に置き換えるとわかりやすくなります。

和洋中ありますよね。和の中でもいろいろです。寿司も牛丼も和です。寿司屋だけに絞ってみても、高いものから安いものまでいろいろです。安全性を守りながら、それぞれが異なる料理を提供しています。鍼灸も、方法が一つである必要はないという点では似ています。

飲食店の料理の食材や味付けを統一しよう、という話は出ませんよね。

もともと鍼灸は医学として揉まれてきたわけですが、近代の医療制度においては医療と見なす立場もあれば、そうでない立場もあります。

もちろん、鍼灸と飲食店を同列に扱うことはできません。それでも、日本の鍼灸が持つ多様性を理解するには、悪くない例えだと思います。

多様な方法があるからこそ、「〇〇式」も生まれます。独自の技術を生み出すことには価値があります。しかし、独自であることと優れていることは別です。

結局のところ、患者さんが知りたいのは「何式なのか」ではなく、「自分にとってよい鍼灸なのか」ではないでしょうか。

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