同じツボを使ったのに、前と同じようには効かなかった。こういうとき、何が違ったのだろうと考えます。ツボの位置なのか、鍼の深さなのか。それとも、患者さんの身体の状態が違ったのか。考えることはいくらでもあります。だから困るのです
「人の身体はそれぞれ違うから」と言えば、たいていのことは説明できてしまいます。確かにその通りなのですが、それで話を終えてしまうと、次にどうしたらよいのかがわかりません。
たとえば、「肩こりに合谷を使ったら効いた」と聞いたとします。合谷は、手の親指と人差し指の間にある、おなじみのツボです。さっそく別の肩こりの人に使ってみたけれど、思ったような変化がない。こうなると、「合谷は効くのか、効かないのか」という話になります。でも、その結論を出す前に、確かめておきたいことがあります。
同じ肩こりなら、同じツボでよいのか
ここからは、説明のために二人の人を想像してみてください。一人は、右を振り向こうとすると首から肩にかけてつっぱる人。もう一人は、首を回すことには困っていないけれど、パソコンに向かっていると肩が重くなる人です。二人とも「肩こりです」と言います。
しかし、最初の人で確かめたいのは、右を振り向くときの動きとつっぱりです。もう一人では、肩の重さがどんな姿勢で現れるのかを、もう少し調べる必要があります。同じ「肩こり」という名前の箱に入っていても、中身まで同じとは限りません。
そこを確かめずに「前の肩こりには合谷が効いたから」と考えると、前の人と今回の人の、何が同じだったのかがわからなくなります。症状の名前とツボの名前。その二つだけでは、鍼の情報として足りないのです。
同じ合谷に鍼をしたつもりでも
もう一つ気になるのは、「同じツボを使った」というところです。同じ名前のツボに鍼をすれば、同じことをしたと言えるのでしょうか。
合谷のあたりに指を置いてみると、親指側にも人差し指側にも幅があります。その範囲のどこを取るのか。鍼をどちらに向けるのか。「合谷を使った」の一言では、そこまで伝わりません。
地図で「駅前で待っています」と言われたようなものです。駅前までは来たけれど、相手が見つからない。改札の前なのか、道路を渡ったところなのか。それを知りたいのです。
ツボの名前が一致していることと、実際に鍼をしている位置や条件が一致していることは、区別する必要があります。もちろん、結果が違う理由をすべて位置の違いにできるわけではありません。ただ、名前が同じだから位置も同じだったと考えるのは、少し早いと思います。

「効いた」とは、何が変わったことなのか
先ほどの、右を振り向くとつっぱる人に戻ります。鍼をする前には、右を見る途中でつっぱりを感じ、それ以上は向きにくかったとします。鍼をした後には、もう少し右まで向けるようになった。この場合、「右に向ける範囲が広がった」と言えます。
では、これで「肩こりに効いた」と言ってよいでしょうか。つっぱりも減ったのか。それとも、向ける範囲は広がったけれど、本人が気にしている肩の重さは残っているのか。そこは聞かなければわかりません。
反対に、向ける範囲はあまり変わらなくても、「さっきより楽に振り向けます」ということも考えられます。動く範囲、動かしやすさ、痛みや重さ。これらを全部まとめて「効いた」にしてしまうと、何が起きたのかが見えにくくなります。
私は、実測できるものは実測したいと考えています。ただ、数字にならない変化もありますから、患者さんの感覚も聞かなければなりません。「どうですか?」と尋ねる前に、何を比べてもらうのかを、こちらもはっきりさせておきたいのです。
変わらなかったときにも、手がかりを残す
右を振り向きやすくしたくて鍼をした。でも、もう一度振り向いてもらっても変わらなかった。このとき、「では、もう一本」と先に進みたくなります。ただ、その前に考えたいことがあります。
選んだツボは狙いに合っていたのか。取った位置はどうだったのか。そもそも、振り向く動きを妨げているものを、うまく捉えられていたのか。一度の反応だけで答えは出ません。それでも、何を変えたかったのかが決まっていれば、見直すことは具体的になります。
「肩こりに合谷が効いた」という記録よりも、「右を振り向くときのつっぱりに対して使い、何がどう変わったか」という記録の方が、次に考える手がかりになります。
同じツボなのに、なぜ効いたり効かなかったりするのか。その理由を知るには、ツボについてもっと詳しくなる必要があります。同時に、自分が何をもって「効いた」「効いていない」としているのかも、詳しく見ていく必要があると思います。
「合谷が効いた」と聞いたら、私はその続きを知りたいのです。どんな状態の人に、どこをどう取って、何が変わったのか。そこまで話せるようになると、うまくいった話も、うまくいかなかった話も、次の臨床に役立つ情報になります。


コメント