鍼灸師が独占している芸術性

鍼灸師が独占している芸術性

鍼灸に美しさを感じる理由

鍼灸は芸術性を秘めた治療法だと思います。感じるかどうかは個人の問題ですが、少なくとも私がこの職業を選んだのは、直感的に美しさを感じたからです。医療の道を選んだというより、鍼灸の道を選んだと言った方が正確です。

20年以上前の話です。私が16歳の時です。ある鍼灸師の治療を受けたのがきっかけで鍼灸師を目指すことになりました。その出来事から溯ること2年。当時、中学2年生の私は病気を患ってしまい約半年間の療養をしていました。学校に通える状態ではなかったので、病院付属の学校に転校し、入院しながら通っていたのです。その後、病気はすっかり治りました。

医療に助けてもらった経験で、医療に感謝する気持ちが強く芽生えていましたが、医師になろうとは思ったことがありませんでした。医学部に入るのが大変(学力&学費)とか、そういう以前の話です。

医療を仕事にしたい、と思ったのは鍼を受けてからです。高校1年生の時に初めて鍼灸院に行きました。当時の私には何が何だかわからない治療でしたが、病院で受けてきた医療にはないものを感じました。「美しさ」のようなものを感じたのです。

鍼灸は極限まで無駄を省いた治療法です。道具を使わないという点では、マッサージ系や整体系がありますが、一点(ツボ)から作用させるという意味において、鍼以上のものはありません。私にとって、この手法は究極なのです。この極限世界を味わうためには、鍼灸師の免許が必要です(厳密には医師免許でも可)。

鍼灸師だけが知り得る世界。

大げさだと言われようとも、人生で経験してきたものと照らし合わせても、この世界は私にとって特別です。どこの医療が優れているかであるとか、どんな民間療法が秀でているとか、そういう話とは別です。どういう世界観に惹かれているか、という個人の主観です。

私にとって鍼灸は酔える世界です。視野が狭いと言われてもかまいません。鍼灸の世界が十分に広いと感じているので、その中で自分を磨くだけで精一杯というのが本音です。

タコの解剖でタコの動きが想像できるのか!?

鍼灸の世界が広いと言いつつも、活法(古武術整体)も極めたいという欲張りなところが私にはあります。欲は底なしです。鍼灸学校の学生をしていた頃から、あちこちの手技療法を見聞していましたが、心が動いたことはありませんでした。そんな私が活法だけには惹かれました。鍼で感じたように「美しさ」を見たからです。

鍼灸に惹かれる自分も、活法に惹かれる自分も、どっちも本当です。鍼による点からの作用、活法による動きによる調整。それぞれのアプローチに美しさを感じます。どちらの方が優れているか、という決着は付けられません。2つの要素は共存の道を探すしかありませんでした。

鍼灸による「点」と活法による「動き」が私の中で結びつき、そこに新しい可能性が見えてきました。実際に2つの視点で同時に身体を観ると、ツボには動きを制御する重要な役割があることがわかってきました。

人体を部品で理解するには解剖学が極めて重要です。しかし、人体にはそれだけでは説明できない巧妙な仕組みがあります。各部分がどのように協調し、全体として調和の取れた働きをどのように実現しているかを、解剖だけで理解するのは難しいでしょう。

「レントゲンを撮っても原因がわからない。でも痛い。」というのは、不思議なことでも何でもありません。構造の部品から人体のすべては説明できないのは当たり前です。解剖学では、「ツボ」も「動き」も解き明かすことができません。

生きているタコを観たことがない研究者が、タコの死体をいくら調べても、あのような動きを想像するのは難しいと思います。タコの動きを見ればわかるように、動きは骨格だけが決定するものではありません。骨格は、可動点と非可動点をクッキリ分け、動きにパターンを付けるものです。

芸術性を高める新発想

鍼灸の「点」と活法の「動き」が結びついて生まれたのが、古武術鍼法です。名前から古武術をしながら鍼をするものと勘違いされやすいのですが、古武術の裏技である活法から学んだエッセンスを点に集約させたものが古武術鍼法です。

この技術のポイントは「動きを点に置き換える」ことにあります。このプロセスはとてもシンプルで動きの中にある点を探すだけです。人体の動きは回転運動に置きかえることができます。たとえば、右を向いて左を向く。これは頚椎を中心とした回転です。歩く動作においても、膝や脚の軌跡は円(正確には楕円)になります。

人体に往復運動はほとんどありません。往復運動のようにみえても、細長い楕円です。効率のよい運動は、無駄のない回転運動だと言い換えることができます。

人体の動きが回転運動であることがわかれば、その中から点を探すのは簡単です。中心を探せばよいのです。中心を整えることが古武術鍼法の核になっています。ただし、その中心に調整穴(ツボ)があるとは限りません。中心を整えるためのツボは、そこから離れたところにあります。そのためには、活法で言うところの「張力」を理解しなければなりません(今回は詳しいことには触れません)。

筋肉は連動して働くので、ツボも連係して機能していると考えています。臨床経験から間違いありません。この繋がりは、従来の鍼灸が理論の軸としている経絡とは別です。まだ知られていない繋がりを解き明かしていくのが楽しみです。

鍼灸師の常識となる日

こうした考え方と研究は、鍼灸師に少しずつ受け入れられています。まだ新しい考え方ですから、常識となるには時間がかかるかと思いますが、経絡と並行して「点で動きを変える」という発想が将来的には一般的になっていくでしょう。

今年、行われた古武術鍼法<脊柱編>のセミナーは、A日程、B日程、C日程と3回(計6日間)行いました。どの日程も定員に達し、受講者の感想も上々です。鍼灸師の関心の高さを感じることができました。来年は、四肢編、腹背編を展開していきます。どのタイミングからでも「古武術鍼法(動きの鍼法)」を学べるように、カリキュラムを構成しています。

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写真:古武術鍼法<脊柱編>セミナーC日程(11/30-12/1)の様子

ツボと動きの関係は『温故知新』(プロ向け専門誌)の連載でも明らかにしていく予定です。無料で購読できますので興味のある方はぜひご購読ください。

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