■ありがた迷惑なこと
ドアノブは、ドアがあるからドアノブです。
ノブはドアがなければただの金具です。ノブだけ持っていても何にもなりません。この順番がとても大切で、事柄は並列ではありません。この重要性を忘れないように勝手に「ドアノブ理論」と名付けて、患者さんの前に立つ時には常に意識するようにしています。
患者さんから「して欲しい」という求めを頂いていなければ、私が「良い」と思っていることを提供しても、その価値は受け取ってもらえません。その行為はただの「おせっかい」です。
同じことしても、相手によって「迷惑」にも「親切」になります。日本語には便利な「ありがた迷惑」という言葉がありますね。完璧な表現だと思います。

目の前の人が腰痛で苦しんでいても、その人から依頼されていなければ、施術をしても迷惑行為です。技術レベルの問題ではありません。どんなに上等なものでも、欲しいと思っていない人に提供したら迷惑です。
しかも、相手は鍼灸師をどう思っているかわからないのです。「こんなことをしても治るはずがない」ならまだしも、「変なことをして悪化したらどうしてくれるんだ?」と言っている人に施術をしても、良い事は何もありません。懐疑的な相手に施術をすると、空しい結果が待っています。拒む相手の体を調整するほど難しいことはありません。「あなたのことが嫌い」という相手と楽しいデートをするのが難しいのと同じ理由です。
■目の前で困っている人がいても
こういう話をすると、誰かにこう言われるかもしれません。「目の前に腰痛で困っている相手がいるのに放っておけるのか?」と。実際問題として、依頼されない限り放っておくしかありません。
私のことを知っている人ほど「冷たいなー」と思うかもしれません。普段から、腰痛の患者さんを診ていることを知っているからです。でも、私のことを知っている人なんて、ごくわずか。というより、ここを一歩出たら誰も私のことなど知らないわけです。
目の前に現れた知らないおじさんから「腰の治療をしてあげますよ」と声をかけられて、承諾できる人がどれくらいいるでしょうか。代金を請求するしないに関わらず、知らない人からの提案に対しては、誰でも警戒します。「怪しくない」と思っているのは自分だけです。

親切も、時と場合を間違えば正義感を押しつけでしかありません。いくら技術を磨いても、それを相手に押しつけてしまった時点で迷惑行為です。代金を頂くつもりでも押しつければ悪徳商法です。
技術を身に付けることと、必要とされることは違います。
鍼灸を仕事にするためには、誰かに必要とされる状況をつくり出さなければなりません。独立開業するなら、避けては通れない道です。少なくとも、自分のことを説明しなければなりません。
ただ、その説明が一筋縄ではいきません。自信を出し過ぎると傲慢に見え、謙虚すぎると自信なさげに見えてしまうからです。さじ加減に悩まない日はないくらいです。
絶対にやりたくないのは大げさな表現です。プロとしてのプライドが許しません。とはいえ、誰かに大げさに言ってもらえるのは嬉しいのです。そんなズルイところもあります。


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