上手な鍼灸師はツボを殺さない

昨日は品川で社内研修でした。そこで「ツボを殺す」の話になりました。「殺す」と言うからには、ツボは生き物です。死体になるとツボは消えます。

はりきゅうルーム カポス(品川)

■誰でもツボが読めるという話

ツボは人体の組織ではありません。「生きている表情」です。体が凝るのは「疲れがたまっているよ~」という表情です。そんな時、顔の表情もそんな感じになっていると思います。

人は顔の表情を繊細に読むことができます。社会を形成しないと生きていけない人間にとって、相手の考えていることや感情を読み取る能力は極めて重要です。だから進化の過程で発達したのだと思いますし、逆にいえば、進化できたからこそ高度な社会を形成できるようになったと言えます。

「空気を読む」という言葉は「表情を読む」に置き換えてもよいのではないかと思います。表情は情報です。同様に「肉体の表情=ツボ」も情報です。健康状態を読むことができます。

普段、何気なく表情を読んでいるように、ツボも何となく読むことができます。訓練しなくても、人が人のカラダに触れれば、その人の調子がある程度わかります。

母親がよい例です。

子供を抱っこしながら、調子を読んでいるのです。病院の検査ではわからない微妙な情報まで読むことができます。「抱っこ」は子供の心の栄養になるだけでなく、母親にとっても情報を読む訓練として重要なはずです。もちろん父親にとっても。

「ツボは肉体の表情」

このように理解することで、ツボの本質に近づけるようになると思います。連載中の『温故知新』の「鍼灸師のための経穴デザイン入門」では、脳科学や意識の方面からツボの話をしています。今まで感覚世界で東洋医学が語られることが多かったわけですが、近い将来、科学で語れる時代がやってくると思います。

お父さんお母さんの抱っこ

■ツボを殺すってどういうこと!?

ツボを殺すというのは、ツボの表情をつぶすことです。

ツボは大切に扱わないと壊れてしまうのです。力に任せてツボをグリグリすると表情がどんどん崩れてしまいます。ツボは顔の表情のように見てわかるものではありません。見てわかる部分もありますが、基本は触れて読むものです。

触診とはツボの表情を読む行為なのです。硬さ、熱さ、冷え、潤い、発汗状態などから表情を読み取るのです。顔の表情がそうであるように、いくつもの要素が複雑に絡んでいることもあります。

役者が「悲しそうに笑っている」という何とも言えない表情を作るように、ツボにも何とも言えない表情があります。私が好きな役者、堺雅人さんは「喜怒哀楽の全てを笑顔で表現する男」と言われているようですが、ツボにも堺雅人級があったりします(笑)

表情をつぶすと情報が拾えなくなるのです。悲しそうにしているから慰める言葉を探すわけですが、それができなくなるのです。

ツボが便利なのは、表情(情報)であると同時に、治療点であることです。表情を読みながら治療ができるのが鍼灸の魅力です。「検査結果は1週間後です」なんてことはありません。

グリグリするというのは、表情をつぶすことであると同時に治療点をつぶしてしまう行為です。治療点が一度ダメージを受けてしまうと復活するまで時間がかかります。せっかく、診断即治療ができるのに、そのチャンスを失ってしまうのです。

水面の波

ツボに鍼や灸をすることは、体に情報を伝えることです。ツボはアウトプットもインプットもできる情報が出入りする要所です。だから専門的に「穴(けつ)」と言われています。

情報の出入りのことを指して「気が入る」「気が出る」と表現する場合もあります。実際に「気」という物質的なものが出入りしていると考えるのは誤りです。

「気が抜けた顔」だからと言って、物質的な何かを失ったわけではありませんよね。ある特定の感情が生じた時に見られることが多い表情の一つです。

■ツボから出る情報は波のように

鍼をされた場所は、その刺激に対して何らかの反応をします。微細な鍼とはいえ刺されれば、何かしらの応答をします。リアクションがゼロということはありません。リアクションを拾えるかどうかだけの違いです。

ラジオの電波は情報を運びます。実際に音が飛んでくるわけではなく、情報が飛んでくるわけです。ツボも全く同じだと考えています。体の情報がツボを介して飛び交っているのです。情報を操作するための便利な要所がツボです。

波の立っていない池に小石を投げ込めば、波紋が遠くまで広がっていきます。中心にあった水が遠くに広がっていくわけではありません。連鎖する水の上下動があるだけです。

ツボを使うということは、喩えて言うなら、そのツボ特有の波形を作りだすことです。水面が荒れていたら、その波形を読むのは大変です。ツボをグリグリするというのは、水面を荒らしてしまうことです。ツボ特有の波形が打ち消されてしまうのです。ツボに鍼灸をしても効果が低くなります。

水面に落ちる水滴

上手だと思う鍼治療は、水面を荒らさずに目的の波を作ることだと考えています。社内研修では、こうした話をしながら触診を刺鍼を練習しています。

波の立たない触診。これが大事です。波が立つと、ツボは局所作用のみになってしまいます。局所作用だけで十分と考えているなら、関係ない話かもしれません。ただ、局所作用だけなら鍼灸である必要がありません。他にも方法があるからです。

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