「鍼灸は癖になる」は大きな間違い

■モルヒネの6.5倍の効果!?

このブログには、患者さんを施術して気がついたことや、患者さんとの会話でわかったことを書いて来ました。今回も、その中から一つを選んで書きます。

鍼治療をして頭痛が治った患者さんが、こう言いました。

「鍼灸は即効性があるので怖い」

普段から、効果がしっかり出るように工夫をしているので、嬉しすぎるほどの言葉ですが、本当に怖がっている様子たったので、フォローが必要になりました。

時に、鍼灸は症状を劇的に落ち着かせることができます。この時も、薬でも治まらなかった頭痛が鍼治療ですぐに消えました。患者さんは、薬が効かない頭痛が消えたのだから、相当な強さで働きかけていると考えたようです。

「鎮痛効果」としてみれば、薬より高いものを患者さんは感じたわけですが、この考えは間違っています。鍼灸治療は「強さ」で計るものではありません。適切なツボを選び、適切な刺激をした結果、痛みがパッと取れたのです。ハッキリした効果があるからと言って、カラダに強いことをしたわけではないのです。

脳のイラスト

だいぶ前から、鍼をすると「脳内モルヒネ」と言われる鎮痛物質、βエンドルフィンが脳から出て鎮痛効果が表れることは分かっています。このβエンドルフィンは、モルヒネの6.5倍の鎮痛作用があると言われています。このような物質で頭痛が治ったと説明することもできます。

もし、脳内モルヒネを出すことが鍼治療の主たる目的であるならば、頭痛を治めるためには、鍼治療をし続ける必要があります。そうであるならば「怖い」と思っても仕方ありません。

実際の鍼治療は違います。

モルヒネを注射するのと脳内モルヒネが分泌されることは、しっかり区別しなければなりません。体内で産生される脳内モルヒネに副作用はありません(そもそも、体内で分泌されるものに副作用という概念は当てはまりません)。

即効性のある鎮痛作用には「脳内モルヒネ」が関わっているのかもしれませんが、脳内モルヒネは結果的に出ているだけであり、それを目的とはしていません。少なくとも、そういう考えで鍼灸治療を行っていません。脳内モルヒネが分泌されることは、鍼灸治療の一側面でしかなく、鍼灸の治効機序を説明するには十分ではありません。

注射のイラスト

少し知識がある患者さんは、鍼灸によって「脳内モルヒネ」が分泌される話を知っています。ですから、鍼は麻薬と同等にリスクがあると考える人がいてもおかしくありません。麻薬が問題になるのは、強い依存性です。鍼治療にも依存性があると誤解して「癖になる」と思い込んでいる方がいます。

鍼灸に「科学的根拠(エビデンス)」と情報を求めすぎると、鍼灸の理解が浅くなります。現在の科学では説明しきれない多様な作用こそ鍼灸の魅力です。

■鍼灸が癖にならない理由

頭痛を例にすると、鍼治療をし続けることで、頭痛が起こらない体に戻していくのです。もっと正確に言えば、頭痛が必要ない体に戻すのです。詳しい話は、カポスのブログに書いたことがあるので興味のある方はお読みください。

痛みは必要があって出てくるものです。「痛み」は危機を知らせてくれるメッセージです。ですから、痛みを「的(敵)」にするのではなく、痛みの「裏(理)」を知ることを意識しています。

鍼灸によって、痛みを必要としないカラダに戻っていきます。身体には「戻ろうとする力」が備わっています。その力を助けるのが鍼灸です。補助をするのです。

自転車は漕ぎ出せば、安定して立ちます。病気や怪我で苦しんでいる状況は、漕ぎ出せない自転車に似ています。動かないから立てないのです。その場でいくら立てようと思っても、走り出さない限り立ちません。

そんな時は、動き出すまで倒れないように支える補助が必要です。時には、補助輪も有効です。しかし、走り出して自立している自転車に補助輪は邪魔なだけです。自由に曲がることができません。いったん走り出した自転車に必要なのは、ルートに沿って自由に曲がれることです。曲がれることで、危険から回避できるのです。

補助輪は薬に似ています。確実に立たせるにはよいのですが、補助輪が付いたままでは、走り出してからカーブを自由に曲がれません。また、自分で立つ(動き出せば勝手に立つ)ということを忘れてしまいます。

自転車の練習

鍼灸は、自分だけで走れる勢いが出るまで、後ろから支えるようなイメージです。自力で立ったと思ったら手を離すのです。というより、自転車と同じように追いつけなくなって、手が離れてしまいます。見る方向を変えれば、自転車の方から補助役を引き離してしまう感じです。

この話とは別に、鍼灸には疲労回復としての効果もありますから、定期的に受けるという選択肢もあります。心理的に「鍼灸院に通っていると安心する」という依存する患者さんはいると思います。安心を買うという意味で鍼灸院を利用するのも一つです。ただ、それは「鍼灸は癖になる」のとは内容の違う話です。

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