(5)のつづき
第三子となる次男が産まれてから2週間が経ちました。出生届けも出して保険証もやってきました。おかげさまで正式に我が家の一員となりました。
入院は最短コースの5日間でした。出産の翌朝から、妻はスタスタと普通に歩けるほど回復は順調でした(無理に歩かせてはいません)。会陰切開もせずに済んだので痛みもないようです。
活法やツボ刺激のおかげ!?

赤ちゃんは本当にかわいいもので、このかわいさを表現できる言葉は見つかりません。自宅に帰ると真っ先に息子の顔を見に行ってしまいます。
今回は、このシリーズの締めくくりとして、日頃から妊婦さんを診ている鍼灸師として、そして子供を3人授かったパパとしてお産と骨盤について書きます。
■産後の骨盤の歪みって!?
「産んだ後は骨盤が閉じるように調整しなければいけない」と、巷では語られているようですが、それについては思うところがあります。
「産後は骨盤が必ず歪む」と断言しているところも。考えなければいけないのは、「歪む」の定義です。
骨盤が歪むって何だろう・・・

これは骨盤が傾いた状態。「歪み」と言えば歪み…。
そもそも、なぜ、産後に「骨盤の歪み」が取り上げられることが多いのか。それは、お産では産道を開かせるために骨盤が開きます。恥骨結合という靱帯で出来ているつなぎ目がリラキシンというホルモンの働きでゆっくり緩みます。
安産を考える時には、赤ちゃんの通り道をつくってくれる恥骨結合の緩みがとても大事です。ただ、ずっと緩んだままでは骨盤が不安定です。安定して立つことができません。骨盤が定まっていないので、これも「歪み」と言えば歪みです。

産後は、リラキシンが分泌されなくなり、恥骨結合の靱帯は徐々に元通り縮んで硬くなります。それに伴って恥骨結合も締まります。完全に元通りになるには時間がかかるので、産んだ後しばらくは不安定な状態が続きます。踏ん張りが利かず歩行も安定しません。重い荷物を持つような負荷は苦手です。産褥期と言われる、産後6~8週間の時期は安静が勧められるのはそのためです。
■骨盤ベルトの役割
ネットでこんな言葉を見つけました。
産後骨盤ベルトつけなかったせいで、骨盤が開いたまま歪んでしまったらしく、ベルトつけて直しています。
「つけなかったせいで」という表現がとても気になります。骨盤ベルトはあくまでも補助ですから、つけないと弊害が出るというものではありません。それに「骨盤が開いたまま」というのも、意味不明です。時間が経てば恥骨結合は締まっていき、開いたままになることはありません。
産後の腰痛や体型変化(脂肪増加)の原因を「骨盤の歪み」と言う人もいます。医学的な視点というよりは、マーケティングのトレンドです。そもそも「骨盤の歪み」の定義があいまいです。

産後ケア用の骨盤ベルトは、あちこちのメーカーから販売されています。それらに共通するのは「骨盤を締める」ということ。装着するときには、大転子の辺りから巻きます。すると、恥骨結合が締まる方向に圧が加わって、靱帯が緩んでいる状態でも骨盤が安定します。
では、骨盤ベルトをしないと恥骨結合が元に戻らないのでしょうか。だいじょうぶです。「骨盤ベルトをしなかったせいで骨盤が開いたままに…」なんてことはありません。骨盤ベルトは、恥骨結合が元に戻るまでの間、骨盤を補助するものです。
産後は骨盤が不安定です。骨盤が安定しないまま、体に負荷をかけてしまうと、仙腸関節、腰椎、股関節にも普段以上の負荷がかかります。この過剰な負荷が二次的問題を引き起こして、痛みなどの不調をまねくのです。
つまり、骨盤が緩んでいる間は、無防備な状態です。この時期を守るという意味でベルトは一役買ってくれますが、絶対に必要かと言えば疑問です。私の妻は三度の出産で一度も使用していませんが、使わなかった弊害は確認できません。
もし、腰痛になって骨盤ケアをしている整体院にでも行ったら「骨盤の歪みが原因ですね」と言われるかもしれません。産後でも産後でなくても、「骨盤が歪みが腰痛や体の不調の原因」というレトリック(セールストーク)は見かけます。
■歪みの本当の意味
体の不均衡を探そうと思えば、いくらでもリストアップできます。左右を比べればどこかに差は見つかります。それと不調が関係しているとは限りません。もし、不均衡を「歪み」と定義するのであれば、歪みのない体は存在しないことになります。
完璧な環境などありませんから、いつも適応して生きているのです。
クルマが、傾斜している道路で真っ直ぐに進むためには、ハンドルを軽く切っておかなければなりません。そのハンドルの角度は、歪みとは言えません。むしろ、それは適応です。
本当に問題なのは、必要な角度にハンドルを切れないことです。体で言えば、必要な方向に微調整できない体が問題です。私は、こうした不適応状態を歪みと定義しています。
お産で考えても、お産に必要な微調整ができないことが問題であり、それが歪みです。「歪み」という字は「正しからず」と読めます。
「歪み」とは「何かが正しくないこと」です。
冷静になれば実に曖昧ですよね。各々の各々の目的で自由に(都合よく)使える言葉です。私も都合よく使っている一人です。

■「整体」と「歪み」
患者さんは「○○は歪みが原因」という言い回しを好みます。それだけに使いすぎは禁物です。ただ個人的に思うのは、「鍼灸」と「歪み」は相性がよくありません。
お産から話がそれますが、こんな言葉の実験をしたことがあります。
鍼灸師の私が鍼や灸をしながら、「この痛みは歪みが原因ですね~」という言い方をすると、患者さんは、「じゃあ、整体に行った方がいいですか?」と聞いてきます。
根底に「鍼では歪みがなくならない」というイメージがあるのだと思います。そして、整体には「歪みをとるところ」というイメージがあるのでしょう。「歪み」に公式な定義がないように、「整体」にも公式な定義はありません。
やっていることを「○○整体」と名付ければ、それは整体です。これもイメージの問題です。
プロの視点から患者さんにアドバイスしたいのは、腰が痛くて整体に行くなら、整体の結果、腰の痛みが取れるかどうか、または再発しにくい体になるか、がもっとも重要です。歪みを取っているはずなのに、「腰痛がぜんぜん治らない」ということであれば、そこで言う「歪み」と腰痛は関係ないのかもしれません。
■「歪み」と「痛み」 と「動き」
私の結論を書いて終わりにします。
一番何が大事なのかと考えると、「痛み」ではないでしょうか。
患者さんは、痛みがあるから「どうにかしなければ…」と思うわけで、痛みがなければ鍼灸にだって整体にだって行こうとは思いません。いつの間にか、どこかで「この歪みを放っておいたら10年後たいへんなことになりますよ!」なんて脅されて、痛みが取れたあとも「歪み」の問題が心に残ってしまうのです。
なぜ、痛いのでしょうか。
最新の脳科学では興味深いことが指摘されています。それは「動けないと痛くなる」ということです。これまでの常識では「痛いから動けないのだ」と誰もが思っていましたが、実際には違うようです。
心よりも動きが先にある、ことが多くの実験で証明されています。少し専門的な本ですが、興味のある方はこちらの方がおすすめです。
そして、動きやすい体は何かと考えると「よい姿勢」という概念と結びつきます。ここでも重要な指摘をしなければなりません。
よい姿勢だから動きやすいのではなく、動きやすい体がよい姿勢と言えるのです。

動物である人間は、動くことで危険から回避し、動くことで食べ物を手に入れることができます。生存できるかどうかで重要なのは、見た目より動けることです。このように考えると、人の脳は、「よく動く体」を見て「よい姿勢だ!」と認識するようにできているはずです。
また、動きが不自由になると、心も不自由になる、ということも数々の実験で証明されています。動きが自由になると心の動きも良くなるのです。産後うつも、体の動きに解決にヒントがあります。
実際の施術をする際には、「動き」を指標にします。患者さんと術者、双方が確認できるので、歪みを視覚化できるというメリットがあります。
さらにいえば、動きをつくる筋肉と内臓も常に信号を送り合っているので、動きが改善すると、内臓の働きもよくなるのです。筋肉、精神、内臓、この3つは切り離せない関係にあります。
このように、「動き」を中心に身心を調整することを「整動」と呼んでいます。整動という概念は、もともと「活法(かっぽう)」にありました。これを鍼灸で行うのが「整動鍼」です。鍼灸の世界では最近になって出てきた新しい考え方です。鍼灸も脳科学的に考える時代に突入しているようです。
■終わりに
出産に立ち合うことで、普段の臨床では見えない命の姿を見ることができました。こうした機会に恵まれたことに感謝しています。お産の周りには、いろいろな価値観が取り巻いています。どれが正しくてどれが間違っているのか、わからないことだらけです。
時代のトレンドもありますし、産科の都合も入り込みます。宣伝なのか、医学情報なのか、区別できないものも多いです。この記事も例外ではありません。だから、自分で経験している範囲で書くように決めています。
今回のお産の報告は、Facebookでもさせて頂きました。たくさんの方からお祝いのお言葉を頂きました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました!

お産シリーズは、この3章がたぶん最後です。
ブログはもちろん続けます!
このシリーズを最初から読む ≫(1)はじめての分娩台
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・鍼灸師とお産-第2章(1)

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