
前回「『ツボらしき』は数量化できるのか?」のつづきです。
前回の記事では、指先の感覚を数量化するのは難しいが、味覚の世界は進んでいるというところまで書きました。それからだいぶ時間が経ってしまいました。数量化は人工知能と鍼灸を結びつけるには避けては通れない道です。
さてどうするか。
■ツボは座標データ
指先の感覚の数量化よりも簡単にデータ化できそうなものがあります。
それはツボです。
鍼灸の臨床は複雑ですべてをデータ化できませんが、ツボだけならデータ化できます。座標で決まるからです。
ただし、小児鍼に代表される皮膚をさするような刺激は、ツボの位置を座標で示せない場合もあります。こうした例外を除けば、データ化は可能です。
ここで立ちはだかる問題。それは、鍼灸師によってツボの位置が微妙に(特に大きく)違うことです。それぞれが正解と思うところに鍼をしたり灸をしています。
鍼灸施術は、患者さんのプライバシーへの配慮もあり、閉鎖的な空間で行うことが多いです。だから、ツボの位置に誰かのチェックが入ることは滅多にありません。もちろん、ツボの位置の違いは安全の範囲です。
また、鍼灸師は一人で開院している個人事業主がとても多いため、自分のやり方を正解にしがちです。他の鍼灸師と交流がなければ、自分を一番にしておくこともできます。
私も、数年前まで鍼灸師一人というスタイルだったので、自分の技術をさらす機会がありませんでした。それだと、いくらがんばってもデータ化は無理です。さらしてみて、同じ変化(現象)が得られるツボがデータ化に対応できます。
■ツボの情報を収集するには
現在は、残念ながらツボデータを収集する方法はありません。各流派や団体が、それぞれ経験値として持っているだけです。有名な先生の臨床報告や見解が書籍になっているだけです。
結局、ツボについてわかっている気になっているのは鍼灸師だけです。ツボの効果は謎だらけです。本屋さんに並ぶと一般向けのツボの本が並んでいますが、プロが使うツボとは趣向が違います。
プロはツボの位置感がシビアです。ツボに鍼や灸をして、その場で患者さんが変化に気が付くようでなければ、プロとしてやっていけません。
シビアであることはデータ収集にとっては好都合です。座標の精度が高くなればなるほど、データの信頼性が高くなるからです。
シビアに取穴(ツボの位置を決めること)された症例が、一箇所に集められたらとても面白いことになると思います。そして集めたデータを人間が解析するのではなく、人工知能が解析したら、思いも寄らない事実が見えてくるかも知れません。
データからツボの効果を証明できます。
鍼灸師が症例をわっせわっせと集めて、人工知能があっさりと解析する。そこから出てくる事実が患者さんに還元されます。大きな資本が入らなければできなかったことが、ITインフラが充実してきた今は手の届きそうな所にあります。
■ツボの実験をするには
症例のデータと合わせて重要なのが実験です。ツボで何が起こるのか、一つ一つ丁寧に調べていくのは地道な作業です。
鍼灸師は実験屋ではありませんから、自力で実験をするには、資金的にもノウハウ的にも超える壁がとても高いです。しかし、何とか乗り越えたいところです。
考えれば考えるほど自力では無理です。
他力に目を向けたら、そもそもの問題に気が付きました。研究者がツボに関心がないことです。研究者が研究したいと思えるような事実(症例)が少ないのです。あっても個人の経験の範囲。それでは研究者の探究心に火は付きません。
事例が大量にあれば火が付きます。ツボの世界に、科学の目がほとんど入っていませんから、関心を持った研究者はパイオニアになれます。
だから、私たちのような臨床家は、目の前の患者さんに集中しつつも、その傍らで研究者の関心を引くことを企てていくのが現実的です。
■ツボの価値がわからない人々
鍼灸を体験したことがない人に限って、鍼灸を批判します。鍼灸師がいくら声を大きくしても、最初から価値なしと決めつけている人には届きません。だから、鍼灸師以外の人が鍼灸やツボの価値を伝えてる方が効果大です。
こういう立場で、自分にできることを考えていきたいです。少しずつでも具体的に動いていれば実現に近づくはずです。やらねば!
人工知能と鍼灸シリーズ、これにて完。
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