第2部 『黄帝内経』は「五行ありき」で書かれているわけではない

黄帝内経は五行ありきで書かれているわけではない

『黄帝内経』は「経絡ありき」で書かれているわけではないのつづき

前回は、『黄帝内経』を読むときに「完成した経絡理論」というフィルターをいったん外してみました。今回は、もう一つ外してみます。五行説です。

五行説とは?

鍼灸を学ぶと、木・火・土・金・水という五行説は最初からそこにあるものとして登場します。五輸穴と言われる「井・滎・輸・経・合」も例外ではありません。

陰経では、

 井=木
 滎=火
 輸=土
 経=金
 合=水

陽経では、

 井=金
 滎=水
 輸=木
 経=火
 合=土

です。

よく見かける五芒星で表すとこんなふうになります。東洋医学をどこかでかじった方なら「なんか見たことある」となるはずです。この五芒星が、東洋医学のイメージになっている人が多いでしょう。5つの要素に分けて関係性を世界の関係を説いているのが五行説です。

五輸穴と五行の配当

「合」は水や土という意味なのか

『霊枢・九鍼十二原』には、井・滎・輸・経・合について、こうあります。

 所出為井(出るところを井とする)
 所溜為滎(流れるところを滎とする)
 所注為輸(注ぐところを輸とする)
 所行為経(行くところを経とする)
 所入為合(入るところを合とする)

どこにも水とは書いてありません。土とも書いてありません。

『九鍼十二原』は五行ではなく、動きで「合」を説明しています。井・滎・輸・経・合を五行から切り離して並べてみると、

 出る → 流れる → 注ぐ → 行く → 入る

となります。

五つの穴を五行に分類しているというより、何かが動いていく様子を表しているように見えます。

第1部では「胃」と書かれているのに、私たちが無意識に「胃経」を補って読んでいることを問題にしました。今回も同じです。「合」と書かれているだけなのに、私たちは無意識に「水」や「土」を補って読んでしまうのです。なぜなら五行説をすでに知っているからです。

要穴表(五輸穴・五行穴)

知っている者が表をつくるとこうなります。

実際に学校の教科書にはこうあります。限られた時間の中で教科書は構成しなければなりませんから、すべての時代の論説をひとまとめにするのは理にかなっています。

しかし、意味を考える上では混乱を招き、東洋医学をわかりにくいものにしてしまっています。教科書を編集してくださった先生方にはたいへん失礼なことを書いていますが、お許しください。

「意味」の列の一番下は「経脈の入る所」とありますが、『霊枢 九鍼十二原』には「所入為合」=「入る所」としか書いていません。経脈(経絡)なんて言葉はありません。

また、主治の一番下は「逆気而泄(腎経)」とありますが、『難経・六十八難』には、「合主逆気而泄」としか書いてありません。経絡の話をしていませんから「腎経」は余計です。

『難経』が理解を難しくしている

前回の記事の通り、臓腑と経絡は最初から一つだったわけではありません。この表には明らかに、経絡理論を軸に理解しようという後世の意図が入り込んでいて、原文の理解を遠ざけてしまっています。

私なりに整理してみました。「合」の本来の意味を探るために重要なのは、時系列です。

要穴表の出典の整理(一覧)

『難経』は『霊枢・九鍼十二原篇』より後の時代に成立した文献です。『霊枢・九鍼十二原篇』を含む『黄帝内経』に記された医学を受け継ぎながら、五行説などを使って解釈・整理している部分があります。そのため、『難経』の説明をそのまま『黄帝内経』の古い記載に遡って当てはめないことが大切です。

本来の意味を知りたい場合には、『難経』に引っ張られず「井・滎・輸・経・合」の定義している『霊枢・九鍼十二原篇』から意味を拾わなければいけません。

「合」とは何か?

合の定義は「所入為合」です。「入るところ」というのが意味です。ここから考えなければいけないのは、①何が出るのか、②何に入るのか、です。後に整理された経絡理論も五行説も解釈に含めてはいけません。

合を記している古典

概念が同階層にあると考えられる『霊枢・九鍼十二原篇」と「霊枢・邪気蔵府病形篇」から合の解説を拾い出すと、

 ①所入為合
 ②胃合於三里
 ③合治内府

となります。
この3つを並べると、「合」の輪郭がかなり見えてきます。

 ① 所入為合
  → 合とは、何かが入るところ

 ② 胃合於三里
  → 合とは、臓腑と身体の特定部位を結びつける関係がある

 ③ 合治内府
  → 合には、身体の表面ではなく「内」に作用する性格がある

つまり3つを重ねると、

「合」とは、身体の特定部位を介して内へ入り、臓腑に作用するための接点

という仮説が浮かびます。

これがかなり重要だと思います。現代の「○○経の合穴」という分類をいったん外すと、

 入る(所入)
 ↓
 臓腑とつながる(胃合於三里)
 ↓
 内を治す(合治内府)

という一貫した方向性が見えてきます。

そして次に問題になるのが、まさに「その『内府』とはどこまでを指すのか。六腑だけなのか、それとも五臓を含む内部の臓腑なのか」です。

第3部に続きます…内臓につながるツボはどこにあるのか

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