<このシリーズでは、鍼灸師であるクリ助が妊産婦さんに何ができるかを考えていきます。お産の現場をできるだけリアルに伝えますので、よいお産について一緒に考えてください。>
鍼灸師とお産(1)←シリーズの初めから読む
鍼灸師とお産(12)←前回の話に戻る
バースプラン(出産計画表)を提出していたので、助産師さんは承知している様子でした。あっさりとしたお返事が返ってきました。
次の瞬間、
「こういう時は三陰交(さんいんこう)ですか?」
と、助産師さんの口から驚きの一言が出ました。
私はこういう質問をされるが大好きなのです。ツボの名前が相手の方から出てくるシチュエーションは滅多にないですから、新鮮であり貴重です。三陰交という言葉は確実に助産師さんと私の距離を縮めてくれました。正確には、私が近寄っていっただけですが…。
確かに、婦人科系のツボとして三陰交は有名です。あちこちで、安産のツボや逆子を治すツボとして紹介されています。でも、実際はなんでもかんでも三陰交というわけにはいきません。私は助産師さんにこう答えました。
「三陰交を使う時もありますが、体の状態によって使うツボは違うんですよ。」
鍼の準備が整った私は、クリ子の体を診て腰にある大腸兪(だいちょうゆ)というツボに鍼を打つことにしました。こわばって硬くなっている腰を和らげる目的です。実は、陣痛が始まってすぐに打った鍼は大腸兪です。腰周辺のこわばりを取ったことが陣痛を押し進めていると直感的にわかっていたので、もう一度腰にアプローチしてみようと思ったのです。普通は、同じツボに2回続けて鍼をすることはありません。ただ、この時はクリ子の大腸兪がどのように作用するのか、確認したかったのです。自分の妻だからこそできる実験です(クリ子には内緒です)。
クリ子に内緒で行う大腸兪の効果確認プロジェクト。助産師さんも私が実験しているなんて知るはずもありません。たぶん、こういう時はここに刺すんだ~と、軽い感想を持っていたはずです。
陣痛の谷間を狙って大腸兪に鍼を刺します。
今だぁ!!!
つづく→鍼灸師とお産(14)
<おまけの解説>
私に限らず、患者さんを治療するとき、刺鍼前の問診や触診を十分に行った上で施術します。相手が普段から診ているクリ子だからこそ、瞬時に安全で効果的なツボを選ぶことができるのです。文章中に出てくる「実験」とは安全であることを前提として効果の大小を検証することを意味しています。また、状況的に体を丁寧に診ることが難しいため、無難なツボを選ぶという意味でも大腸兪を選択しました。腰をマッサージしてゆるめる目的とほぼ同じです(実際にはプラスアルファがあります)。


コメント
鍼灸の実験台だったら、私も喜んで体を差し出したいところです。\(^o^)/
何かいいことありそうな気がするのは、私だけでしょうか?
西洋医学の「薬」だったら、ごめんこうむりたいですが。
陣痛に耐えている間は、確かに体中がこわばります。
耐えてるんですから、体にも力が入ろうってモンです。
陣痛中は誰かに体をさすってもらった、という話を良く聞きますよね。
知らない間に体の欲している事を欲求するのでしょうか?
すごいな、体って・・・。
分娩は時間と母体の体力との勝負ですから、
迅速な判断が求められますよね。
クリ助さんの英断、一患者としてホレボレします。
まぁ、陣痛でウンウンいっているところに、丁寧にあれこれ診られたら、
「ちょっと!早くどうにかして!」と私は怒るかもしれませんが。
>Chabさん
昼休みに突入しました。
早速、コメントありがとうございます。
鍼灸は適切な施術であれば、よいことはあっても悪いことがないです。西洋医学の「薬」のように副作用を覚悟する必要がないので、それが鍼灸の最大の魅力かもしれませんね。妊娠中に鍼灸は最適だと断言できるのは、まさにそこですね。Chabさんは十分に実感されていると思いますが。
今回使ったツボは、陣痛中に体をさする目的と一緒ですね。本来、ツボ選びは理論と根拠に根ざしたものでなければならないと思いますが、やってほしいところにスッと手が出ることも必要だと考えています。
鍼灸の技術は感性と理論の狭間にあるのかもしれません。そのちょうど真ん中にいられたとき、よい治療ができている気がします。あくまでも私の感覚の話ですが…。
「お産の現場から」の選穴の判断ですね~。
大腸兪を目の前で選穴されたのをご覧になった助産師さんは
「私達の腰仙部の強擦もツボの理にかなっているんじゃない?」
と思われたかもしれませんね。
お産の前後に鍼灸を受けることができる妊婦さんはいるけれど、
実際のお産の現場でうけられることが可能な妊婦さんはまだまだ少ないので、
やはり女性鍼灸師である私でさえ(実験であれ)クリ子さんがうらやましいです。
私の父も鍼灸師ですが(柔整師でもあり)得意分野は整形外科分野の鎮痛が主で
妊婦さんに鍼をすることにすごくびびりがあり(まして腰は)
私や妹の妊娠中にも鍼はしてくれませんでした。
8月に妹の2人目の子が生まれるのでクリ助さんの実体験を参考に
お産の現場で鍼灸を行ってこようと思ってます。(自分の今後のお産のためにも・・・)
人生の、素晴らしい瞬間で自分の力量を発揮できることほど、幸せなことはないですね。
勇気も必要ですが、とても想い出深いことになるでしょう。
クリ助さんの勇気に乾杯です。ポチ!
>なちゅらさん
大腸兪を選穴するときに、実は腰仙部の強擦も頭にありました。
腰を温めたり、さすったり、押したり…という刺激は間違いではないという確信があったので、自信をもって大腸兪に鍼ができたと思います。
「クリ子が羨ましい」と思っていただたのは、嬉しいことです。鍼灸師が見たお産の現場をリアルに伝えることで、こんなお産いいなぁ~、って思っていただきたいのです。自分が経験して本当によいと確信を持っているので、こういう取り組みがお産の現場に伝わることを願っています。
この分野は特に女性鍼灸師に活躍してほしいと思っています!
(つづき)
男性鍼灸師の私がそう言うところに意味があると思っています。女性鍼灸師が「女性のために…」というのももちろん効果的ですが、男性鍼灸師がお産についてアレコレ言いつつ、この分野は女性鍼灸師の方が…という方がさらに説得力あるかなーって思っています。あと、お産は女性の間で話題にされることがあっても、男性の間で話題になることは少ないです。でも、子供のことだから、本来は男女関係ないはずですよね。男性側に問題があるかもしれませんが、女性間のお産話に男性が入りにくい空気もあるように思います。
なちゅらさんの取り組み(ブログなど)も応援していますよ☆
鍼灸師にできることってまだまだたくさんあると思うので一緒に頑張りましょう。
>サトさん
その通りでして、本当によい思い出になっています。まだ全貌は書いていませんが、このお産を通じて、お産をポジティブに考える方がお得だ!という気持ちが溢れて、それを何としても伝えたいと思っているのです。
こんなに感動が深い場は滅多にありませんから。
その感動を運よく味わえた私が、その感動を書くことで、お産に向き合うご夫婦のヒントになれば本当に嬉しいことです。
勇気というか、勢いと好奇心でした(笑)