(4)の続き
■価値を見抜ける人
鍼灸施術の価値を見抜ける人は2割くらいかもしれません。いや、1割かもしれません。数字はこの際どうでもよく、それだけ価値を見抜くのは難しいことです。
鍼灸に限った話ではないと思います。私は、ワインの善し悪しがわからないので、価値は値札で判断します(もともとお酒は飲みませんが)。クルマを整備してもらっても、その整備士の技術が良いのか悪いのか判断できません。
価値を自分で判断できるのは自分の専門分野だけです。それ以外は、提示された金額を承認しているだけです。みんながそれくらいで買っているのだから、それが相場なんだろう、と思って支払っているに過ぎません。価値に対して払っているのでいるのではなく、相場に対して支払っているのです。私も例外でなく、ほとんどの買い物でそうなっています。
話を鍼灸に戻します。やはり、相場というものがあります。自由診療であれば、相場は数千円から高くても1万円程度です。1回で何万円もする、相場から極端に外れた値付けもあります。

私の目から見て、料金と技術は比例していません。ですから、そうでもない技術に大きな額を支払っている場合と、高い技術に小さな額を支払っている場合があるということです。相場というものに、本当の技術の価値はかき消されてしまっているのです。これが良いとか悪いとかは、議題からそれていくのでやめておきます。
断言しますが、患者さんが鍼灸師の腕を客観的に判断することはできません。健康状態が安定し経済的な余裕があれば、複数の鍼灸院に足を運んで受け比べができるかもしれません。しかし、医療的な鍼灸を求めている時というのは余裕がありません。受け比べもできませんし、冷静な判断もできません。
「芸能人が通っている鍼灸院」、「本を書いている鍼灸師」と言った情報は、価値を判断できない専門家以外の人にとっては比重が高いものです。そういう鍼灸師が、1回の施術でたくさんの鍼をしている話を書けば、鍼は多いほど効くものだと勘違いしてしまいます。
■人間性は大事だが売り物ではない
鍼灸師は人間性が大事という話もよく耳にします。では、患者さんは人間性にお金を支払っているのでしょうか。
嫌な感じがする人より、イイ感じがする人から施術を受けたいという気持ちはわかります。でも、それは「同じ物を買うなら誰から買いたいか」の「誰」の部分です。クルマで言えば、気持ちのイイ営業マンから買うことに相当します。

営業マンが優れていても、クルマの最高速度も燃費も変わりません。ただ、購入時の満足度が高くなるだけです(それも大事なことだと思います)。営業マンによってクルマの価値は変わりません。
もし、鍼灸師が人間性を価値だと考えた瞬間に、おかしなことになるのは間違いありません。人間性が大事だという話は、「いい感じの営業マンになりなさい」というのは、ぼんやりとしたマーケティング論でしかないと思うのです。
開業していればなおさら、マーケティングも仕事ですから、自分の技術の価値を正しく伝えられなければなりません。そういう意味で、耳を傾けてもらいやすい人間である方が断然有利です。
人間性という言葉はぼんやりしているのに、言う人が言うと説得力のある不思議な言葉です。実は、私の活法の師匠もよく使います。だからこそ、気を付けたいと思っています。人間性は大事ですが、売り物ではありません。
「技術はあって当たり前、勝負は人間性だ」という言葉を聞いたら、気を付けてください。決して、人間性を売ろうと思ってはいけないのです。言わずもがな、「いい人」になっても鍼灸で食べていけません。
自分はどんな価値を生み出し、そして何を売っているのかを分析し、それと合わせて、患者さんの視点から「何に対してお金を払っているのか」を考え抜ける鍼灸師だけがスタートラインに着けるのだと思います。
■人間性より態度
漠然とした言葉では指示は出せません。新入社員に「人間性を磨こうよ」と思ったとしても、「人間性を磨きなさい」という指示はあまりにも漠然としていて、意味がありません。人間性は結果だと思っていますので、患者さんからも同業者からも高く評価される人間性を想像し、そこに達するためのプロセスを提案することにしています。
常に言っているのは「専門家として親切に接する」という言葉です。患者さんが話しやすいように聞くこと、分かりやすい言葉で伝えること、院内で迷わせないこと、などが基本です。そして、専門家として「こうした方がよい」という提案をします。
専門家として患者さんに譲れないことがあります。患者さんに「○○にしてください」と言われても、専門家として妥当ではないと判断すれば理由を添えてきっぱりと断ります。専門家の立場は絶対に崩さないようにします。

できないことは「できない」と言うことが大切ですし、そのためには、自分や属する組織でできることを分かっていないといけません。
「これは親切だろうか、それとも不親切だろうか」
と問いかけ続けていれば、必要な態度から大きく外れることはないと考えています。
「マッサージをしてほしい」という患者さんが目の前にいた時、その要望に応えることが親切であるとは限りません。もし、専門家の立場から見てもマッサージを必要としているならば、信頼できるあん摩マッサージ指圧師を紹介するのが親切だと思います。餅は餅屋の理屈のままです。
マッサージをやらない理由は、鍼灸師だからです。
鍼灸師の立場で常にベストを尽くしたいからです。
<おわり>
『私がマッサージをやらない理由』をはじめから読む ≫(1)
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