鍼灸師の思考 私がマッサージをやらない理由(4)

)のつづき

■鍼灸師で食べていく思考

昨日に新入社員1名迎え、再来月にはもう1名を迎えます。この記事は、彼らに読んでほしいと思いながら書いたものです。鍼灸専門の鍼灸院に勤務するということはどういう意味なのか。

鍼灸とマッサージの違いを「手段の違い」としてだけでなく、その背景にある心理的な違いまで理解しなければ、患者さんの信頼を得ることは難しいだろうと思っています。

鍼灸師という職には厳しい現実があります。

鍼灸(はり師、きゅう師)の免許を取っても、“鍼灸師として”食べていける人はわずかです。しかも、そのわずかな人も収入が高いと言い切れません。制度や環境のせいばかりにしてはいられません。私たちの中に潜む問題は最低でもクリアしておかなければなりません。

免許を取るには最低3年と数百万円かかります。その時間とお金を免許所得のためだけに費やしてしまうと、その免許を活かす術を持たないまま社会に出ることになってしまいます。免許を持っているからと無条件に雇ってくれるところはどこにもありません。免許を活かせない現実を叩きつけられます。

鍼灸の価値を自ら説明できなければ、勤務先を探すにしても、独立するにしても、行き詰まることでしょう。慰安マッサージに転向する人、「整体師」に肩書きを変える人も少なくありません。整体師に免許は必要ありませんから、鍼灸師が整体師をすることは問題がありません。むしろ、広告制限などを気にする必要がないので、ビジネス的には利点が増えます。

鍼灸をしないのであれば、わざわざ鍼灸師になる必要はないのです。鍼灸に対する特別な気持ちを説明できない人は、鍼灸の免許は取らない方がよいでしょう。その時間とお金は、もっと自分の能力を活かすために使うべきです。

優れた療法は鍼灸だけではありません。私自身も「活法」という古武術整体を学び、鍼灸が全てではないことを十分に承知しています。逆も言えます。活法も全てではありません。

極める

全てを凌駕する療法などなく、それぞれの療法には、それにしかできないことがあると思っています。だから答えは決まっているのです。鍼灸で食べて行くには、鍼灸にしかできないことをやればよいのです。食べていっている鍼灸師が皆同じ答えだとは思いませんが、結果的にそうなっている場合が多いと思います。私の場合、鍼灸の原点である「ツボの探求」に力を注ぐことで、鍼灸にしかできなことを探し続けています。

手を抜かず、しっかり追究しないといけません。「揉んでも取れないコリから鍼をしてみよう」という程度では、優れたマシンに負けてしまいます。最近の機械は性能が良いですから。

■鍼灸師が売っているもの

マッサージとして対比させると答えが見つかりやすいでしょう。慰安系のマッサージは、「○分○円」と時間単位で販売されているのですぐにわかります。施術時間によって価格が変わると言うことは、労働時間がそのまま対価となっているわけです。

色の付いた時間を売るマッサージ

価値の基準が時間に置かれています。お客さんはマッサージで着色された時間を買っているのです。施術者側からみれば、自分の時間を売っています。いくら、技術を売っているという意識で取り組んでいても、時間の切り売りという構造からは逃れられません。

では、鍼灸師は何を売っているのでしょうか。「鍼1本○円」としているならば、刺鍼行為を売っていることになります。数を多く打てば打つほど価値は上がっていきます。この時、受け手の意識は自然と鍼の数に向かいます。鍼というものは、たくさんすればするほど価値が高いのです。この場合は、価値が量(数)に置かれています。

実際のところ、鍼の価値は鍼やツボの数で決まるものなのでしょうか?

料理に置き換えると自ずと答えが出てきます。料理の価値は、食材や調味料の数で決まると言えるでしょうか。そんなことはありませんよね。飲食店で量は魅力の一つではありますが、それだけを基準にお店を選ぶことはありません。食材が1つでも、素材にこだわり手間暇かけて料理したものなら食べてみたくなります。また、同じ料理が、どこで誰とどんな状況で食べるかで美味しさが変わります。

量は料理の価値の一つですが、一つでしかありません。多すぎて価値を落とすこともあります。もてなしの時間もそうです。ゆっくり接客されるより、パッと料理を出されてさっと帰れる方がよい場合もあります。

電卓

価値は受け手との関係でどうにでもなってしまいます。価値を計る共通の基準はどこにも存在しません。でも、そう言ってしまうと何も決められません。時間や量という数量化しやすいもので提示すると価値を一本化できます。労働者が生み出す付加価値も計算しやすくなります。

受け手が価値を決める基準を手に入れ、提供者も労働価値を決める基準を手に入られる仕組みは便利と言えば便利です。ただ、価値を「時間」と「量」の2つの側面だけで決めてしまっているので、本当の価値を知るチャンスは奪われてしまいます。

つづく…(最終回

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