前編のつづき

国際化のために中国が捨てたもの
手太陰肺経は、国際表記では、LUNG MERIDIANとなります。LUNGは肺という意味で、MERIDIANは子午線(地球表面に引く縦線)ですが、鍼灸の世界でMERIDIANと言えば経絡を意味しています。
つまり、国際表記にした時に「肺の縦線」となり、重要な部分が欠けています。それは「太陰」です。太陰は位置情報を示します。腕の内側で親指側が太陰です。国際表記では、大事な大事な位置情報がすっかり抜け落ちているのです。
「肺の縦線」と認識する欧米では、太陰という位置情報がごっそり抜け落ちてしまいます。大きな損失は、この経絡のイメージが肺という臓器に支配されてしまうことです。

世界に中国伝統医学を普及させようと表現を簡略化した結果、経絡から位置情報を抜き去ってしまうというミスをしました。太陰という文字が示す位置情報こそ経絡の本質であるにも関わらず。
この意味を理解して頂くには、足の太陽膀胱経を例に挙げるのが一番です。
膀胱経は、国際表記ではBLです。膀胱を意味するBLADDER の最初の2文字です。この経絡は「足の太陽」が本質的なところです。簡単に言えば「背中の面」を示します。ところが、BLで示されてしまうと、「膀胱」です。
足の太陽膀胱経を見てみるとわかりますが、たくさんのツボが頭から足まで並んでいます。この全てが膀胱に関係があるというのは無理があります。

12本ある経絡のうち、足の太陽膀胱経にもっとも多くのツボが配属されています。全部で67あります。考えてみてください。臓腑の中で膀胱の関するツボが最大なんて奇妙すぎます。
こんな無理な理屈を受け入れられません。太陽と名付けられたラインと理解しておくべきです。しかし、経絡から位置情報を奪われている欧米では、こうした思考の切り替えが難しいのです。
欧米では簡略化の弊害が起きています。
さらに問題なのは、ツボに番号を振り当てていることです。経絡上に並ぶ順番で呼ぶことになっています。たとえば、BL15は、足の太陽膀胱経の「心兪」というツボです。
本来、「心の兪」(心臓の働きと深く関わるツボ)であることがツボを使う上でもっとも大事なのですが、そんな意味がBL15には入っていません。教科書で「BL15は心臓の働きと深く関わるツボですよ」と教わっても、ツボを読むだけで直感的に理解できる私たち日本人には及びません。
簡略化によって、BL15は「膀胱」のイメージに支配され、本質である方がの「心」が消されるという悲劇がが起きているのです。この悲劇に気が付いて指摘できるのは、日本人くらいです。中国人は弊害に気がついても、一度つくったものを撤回しないと思います。。
中国は経絡を証明できるのか?
中国のとった戦略は、経絡の存在を前提とするものです。
すべてのツボを経絡に所属させ、番号を割り振りました。日本でもそのように教育を受けますが、漢字を読める日本人はツボに付け得られた漢字の名前から託された意味を探ることができます。経絡という前提が崩壊しても、ツボの価値が残るのです。
中国は経絡の崩壊は想定していません。前の記事で書いたように、経絡は鍼灸理論を構築する中で視覚化されたイメージです。事実から生まれたものではなく、デザインされたものです。いつ崩壊してもおかしくないものなのです。たまたま、二千年以上もの間、否定されなかっただけです。
ツボの作用を説明する新たな理論が登場した時、経絡は世界から真偽を問われます。ツボを経絡で説明するのか、科学で説明するのか、あなたならどっちを選びますか? 私が患者の立場なら後者を選びます。
今はまだ科学でメカニズムを証明するのが難しいから、「経絡というのがあるらしく、○○に効果があると言われている」という噂話のような表現になってしまいます。
鍼灸が科学にさらされる時、中国は経絡の証明に懸命にならざるを得ません。日本は経絡を証明する必要なく、臨床的価値のみを肯定すればよいのです。
経絡の存在を証明することと、経絡の臨床価値を肯定することは、似ているようで全く異なります。前者は「経絡がある」という客観的事実を捕まえなければいけませんが、後者は、経絡がツボ選びのヒントになったらOKです。
日本では経絡があろうとなかろうと、ツボの効果だけを調べていけばよいのです。
後編につづく…日本の鍼灸師が取るべき戦略
・はりきゅう養気院(群馬県伊勢崎市)
・はりきゅうルーム カポス(東京都港区/品川駅)
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