
(その1)のつづき
■鍼灸師の自己管理能力
人はどこかで「自分だけは大丈夫」と思っていると思います。そして、何かあると「なぜ自分だけが…」と思ってしまいます。鍼灸師も例外ではありません。「自分はずっと健康でいられる」という前提で将来を考えてしまうのです。どこかで「自分だけは大丈夫」と思っているのです。しかも、調子を崩した人の身心に向き合っている職業であるはずなのに…。
私の知る限りでも、健康問題で仕事を一定期間休まなければならなかった人を何人も知っています。復活できた人もいれば、未だに復活の機会を待っている人もいます。「保険に入ろう」というお誘いではありませんが、それも大事な備えの一つです。
独立前提で鍼灸師になる場合、経営者としての資質は不可欠。次いで、健康的な精神と肉体です。一人で行う鍼灸院であれば、なおさら健康への投資は避けられません。これでも、けっこう気を付けています。時に(睡眠時間を削るなどして)無理することがありますが、限界を越えないラインを厳しく守っています。時に厳しく、時に甘くです。
「一人でやっていると何かあったら大変だから、スタッフを雇っておこう。そうすれば自分に何かあっても大丈夫。」という考えは、一瞬にしてはかない夢と終わります。
なぜなら、経営者(院長)がいつまでも仕事ができなければ、従業員は不安になって、居続けることはないからです。つまり、スタッフを雇っても、病気になってしまえばアウトだということです。
一人でやるのはリスク、従業員を雇ってもリスクから逃れられない。いったいどうすればいいのか。自己管理を徹底できても、回避できない病気や怪我はあります。実際、私もこの呪縛から逃れられないでいます。
こうなってしまうのは、あるルールが前提になっているからです。それは「院長の仕事を従業員が手伝う」というスタイルです。院長が診られない患者さんを従業員の鍼灸師が診る、という構図です。「忙しくなった鍼灸師が、助手が欲しく鍼灸師を雇う」というパターンです。
こういう理由でスタッフを増やしても、スタッフを自分未満に教育することになります。そんな気がなくても、従業員鍼灸師は、院長を超えられない立場にいることになります。従業員の能力に関係なく、結果的にそうなってしまいます。
雇った鍼灸師が自分未満にならないようにするには、どうすればいいか。そんなことを考えながらの毎日です。私が背負っているリスクを回避する道は、組織を育てる他ないと思っています。私を必要としない組織です。まあ、本当に必要とされなくなったら困るわけなので、「“常に”必要としない」と言い換えておきましょう。
「居なくてもいいかと思ったけど、やっぱりいないと困るよね。」
という存在。従業員がこう思っていたら、私のリスクは軽減したことになります。同時に、従業員も、私の健康問題に振り回される必要がなくなります。誰か一人に依存していないので、休みたい時に休めるようにもなります。結果的に長く働きやすい職場環境になっていきます。
鍼灸師が長く務めている鍼灸院の方が、患者さんも安心だと思うのです。
■鍼灸師のコミュニケーション能力
自営業であっても、従業員であっても、鍼灸師である以上は、患者さんとコミュニケーションします。上手であればあるほど、よい治療方針が立てられ、適切なツボ選びもできます。また、信頼関係が築ければ、患者さんの中に安心が生まれ、精神と肉体が安定し、治癒力も高まります。
よって、コミュニケーション能力が高い人が施術者として断然有利です。しかしながら、コミュニケーション能力に難のある人でも、一人治療院として食べていける場合があります。なぜだろう、と考えると一つの結論が出てきます。それは、自営業のメリットである「付き合う人を選べる」ということを上手に利用しているのです。
一人でやっていれば、嫌だと思う患者さんを受ける必要はありません。嫌な上司も、嫌な部下も、嫌な契約先もありません。人間関係を限定的にすることで、自分の居心地を守ることができます。(何かあったら破綻するという)経営的なリスクに目をつむり、ストレスフリーな環境をつくることができます。実際に成り立ちます。私がそうしてきたからです。
わかってもらえる人にだけ通じればよいという考えです。悪いことではありません。むしろ、誰にでもわかってもらいたい、という方が無理があります。今は、従業員を抱える立場、そして付き合う業者さんの幅も広がりましたが、基本的に、わかり合える人と仕事がしたいと思っています。
経営者は、付き合う人を選べる権利を有効に利用すべきです。一人では「自分=事業」なので、好きにやれますが、組織になれば「自分≠事業」ですから、自分の嗜好ばかりで動けません。組織が大きくなればなるほど、よい意味で自分の存在が薄くなっていくような気もします。というより、そういう組織を目指しています。
従業員の立場からすると、経営者を選ぶことはできても(どんな会社に入ろうかは選択できても)上司や同僚は選べません。付き合う人を選べないことを踏まえて接しなければなりません。付き合いたい人を部下にできる私より、高いコミュニケーション能力と適応能力が必要です。実際に越えていると思います。
つづく…(その3)
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