求人その前に(その2)のつづき
■鍼灸師が独立できる理由
会社は、個人で設立して成り立つものと、組織でなければ成り立たないものに分けられます。鍼灸院は、鍼灸師一人いれば事業所を作ることができますが、電力会社では、そうはいきません。当たり前のようですが、この違いを考えることに意味があります。
鍼灸院は一人でも開業できるから、独立しやすいのです。必ずしも組織が必要でないことは、独立の敷居を下げています。小資本であることも独立を気軽にしています。免許のいらない整体院であれば、なおさらです。巷に踊る、「脱ラサして整体師になろう」という言葉。
独立はとても簡単です。驚くほど簡単です。難しいのは、事業を継続していくことです。厳しい現実は、鍼灸業界の常識です。誰かが独立すると「おめでとう!」という言葉が飛び交いますが、本当にお祝いすべき時期は、5周年や10周年などの節目です。

小資本で独立できるということは、裏返せば参入障壁が低いということです。成功モデルがどんどんマネされ、過当競争に陥ります。つまり、ライバルがどんどん増える世界に飛び込むってことです。実は、ここで伝えたいのは、「厳しい競争の現実」ではありません。
個人で事業が成り立つということは、必ずしも組織の一員である必要がないという意味です。ということは、組織を作るということは、そんな人たちを一つにまとめなければなりません。だから、簡単ではありません。
組織に所属して働く理由をつくれなければ、組織は維持できません。すぐに想像できるのは、カリスマ鍼灸師の元で助手をしながら勉強すること。ただ、持論が許されるなら、助手的な存在(院長未満)がいくら増えても、組織になりません。組織というのは、一人一人がいなくては困る存在でありながら、誰かがいない時は、みんなで補える関係がある集団だと考えているからです。
■組織を必要とする時
鍼灸がしたくて鍼灸師になったクリ助。そんな私は、鍼灸をするために、試行錯誤を繰り返してきました。そして、手に入れた鍼灸ができる環境。そんな環境で数年過ごしていたら、ひょんなことから、整体(活法)に出会いました。整体に真剣に向き合ったことで、「鍼灸にしかできないこと」を深く考える日が増えました。

鍼灸に限界はなく、自分の限界だけが見えてきたのです。鍼灸師一人であることの限界を感じ、組織の必要性を強く思うようになっていきました。こんな個人的な事情や感情が発端となって、品川に鍼灸院(カポス)が出来たのです。
一人でも開業できるから独立したものの、次第に一人の限界を感じ、チームへの憧れが膨らんできた、というわけです。
この業界に限らず、「勤務して働くこと=修行をすること」という常識があるように思います。どこかに勤めて、技術を修得できたら(盗めたら)独立するという考えも強くあります。だから、組織をつくろうと思った瞬間から、ノウハウの流出を覚悟する必要があります。
開き直ることにしました。
「流出すると分かっているものは、こっちから出してしまおう」と考えるようになったのです。だから、技術セミナーも経営セミナーもやっています。隠そうと思ったら隠せるものをわざわざ放出しています。そうしたら、返ってくるものが想像以上でした。お金では買えないものが手に入るようになったのです。仲間、そしてその仲間の間で飛び交う生きた情報です。

人やノウハウは出入りしますが、出入りしないものがあります。それは、共有できる“関係”です。この関係は売り買いできません。「関係性こそ、組織の本質である」と考えるようになりました。関係性の中で共有できるものを6つ挙げてみました。
1.施設
2.メディア(ウェブサイト、ブログ、FBページ、広告など)
3.カルテ(患者さん情報など)
4.患者さん(※)
5.マニュアル・ノウハウ
6.達成感
※「患者さんを共有する」という表現には違和感があるかもしれません。患者さんから見たら「担当者が変わる」という話です。
1と2は、コスト面でとても大きな意味があります。家賃やウェブサイトの管理費は一人で負担するより、数人で負担する方がラクです。一人に一つの施設、一人に一つのウェブサイト、というのは負担がとても重いです。一人でやっていくことは、「好きにできる」という自由と引き替えに、割高なコストを背負うことです。
■安い賃金
ただ、従業員としては逆の感覚かもしれません。「患者さんが支払ったお金の一部しかもらえていない(一人なら全部自分のものなのに…)」と。
コスト、税金、社会保険、留保(リスク管理、資金)という認識がなければ、給与が低く見えてしまうでしょう。現金を直接受け取る場面があるため、余計に売上と給与のギャップをダイレクトに感じやすいと思います。実体を見せれば、「え、こんなにかかっているの!?」となると思います。このギャップは、しっかり説明すれば何とかなると思っています。
雇う側の意識に問題があることもあります。新人(新卒)鍼灸師への接し方は、経営者の考え方がダイレクトに出ると思います。
鍼灸師になるには最低3年かかります。実務経験がないうちは不安でいっぱいです。だから、どこかで経験を積んで自信をつけたいと思うのです。そんな新人に対して、「勉強させてあげているのだから給料が少ないのは当たり前。」と最低賃金を無視するところがあるとかないとか…。
経営者として技術者として、「お金を支払っている相手に教えている」という感覚は確かにあります。教えた途端にやめられてしまうというリスクは常に感じています。だとしても、こちら側の理屈を通してしまうと、将来性を感じない職場になってしまいます。大事なのは、ロードマップ(将来への希望)です。

将来の収入に見通しが立たなければ、「この給料ではやっていけない…家族を養っていけない…」という事情で転職するか、独立を決意するしかありません。もちろん、そうしたからといって、満足な収入に達する保証はありません。
現実を知り、泥水をすする思いで、理想とはかけ離れた業務(集客・施術)をしている人もいます。この現状を直視し、アイデアを絞っていかなければなりません。
つづく…(その4)
◎関連施設
・養気院(群馬県伊勢崎市)
・カポス(東京都港区/品川駅)
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