求人その前に(その3)のつづき
■鍼灸は医療?それともビジネス?
「鍼灸院が生産しているのは、患者さんの笑顔です」と言いたいところですが、求人関連のネタなので現実的な言葉を選びます。

保険適用が条件付きで一部しか認められていない鍼灸は、基本的に自由診療であり、自由競争にさらされます。医療の中で、商業的にならざるを得ない状況にあります。理想を言えば、商業的にやりたくはありません。しかし、鍼灸を選んだ以上は、現実を見ていかなければなりません。
病院から商売っ気を感じないのは、収入の大部分が国から入ってくるからです。目の前にいるのは、費用の一部のみ負担するだけの人です。良くも悪くもお客様ではありません。いっぽう、(一部の例外を除き)鍼灸では患者さんが支払ったものが売上です。患者さんの負担額と鍼灸院の売上がピタリ一致するわけです。
鍼灸師には2種類のタイプがいると思います。医療的スタンスで施術している者と、慰安的スタンスで施術している者に分かれます。時と場合によって態度を変えるパターンもあります。私は完全に前者ですし、私が求めている鍼灸師も前者です。
慰安を「ビジネス」と言っても違和感がありません。しかし、医療となると違和感があります。
実際に、医療人としての自覚が高いほど、ビジネス感覚が薄くなりがちです。それは、たとえば「この仕事は儲けるためでなく、患者さんのためにやっている」という言い方になります。その気持ちとは裏腹に「この給料(売上)ではやっていけない…」という厳しい現実があります。
だから、医療とビジネスの両立こそ課題です。ビジネスとして成功しなければ、患者さんの役に立つことができないという現実を直視することから、この仕事は始まります。
勤務する者も、経営する者も、同じ意識である必要があります。
■鍼灸は高すぎる?
鍼灸を受けたくても「高くて通えない」という方、少なくありません。しかし、鍼灸の施術料は安いのです。仮に、病院が全額負担であれば、高くて通えなくなるのは病院の方です。
と言ったところで、患者さんは、自分の懐からいくら出ていくかだけです。保険診療と自由診療の間に公平な関係はありません。同じ医療ですが、土俵は違います。
現実として、「高くても支払う価値がある」と感じてもらえなければ、鍼灸院はおしまいです。繁盛している鍼灸院は例外なく価値づくりに注力しています。

鍼灸師がもっと稼げるようになるには(食べていけるようになるには)、生産性の向上が不可欠です。同じ労働時間でより多く売り上げなければなりません。
生産性を上げるには、一人の患者さんの単価(施術料)を上げるか、一人の患者さんに費やす時間を減らすかの二通りしかありません。もちろん、家賃や広告費を抑えてコストダウンすることも生産性のアップになります。それについては、前回の記事で触れたので省略します。
単価を上げる方法として、ホスピタリティ(もてなし)を磨いて高級志向を目指すパターンがあります。別の言い方をすれば、患者さんを特別な存在にしていくことで単価を上げていくのです。
もう一つは、技術力の向上です。技術力がアップすることで、少ない時間で成果を出すことができます。医療を求めてくる(治りたいと思っている)患者さんは、成果に対して代金を負担する感覚です。気持ちよく過ごす時間や楽しいおしゃべりの費用を負担しているわけではありません(成果が同じであるなら、気持ちよく楽しい方がよいと思います)。
技術は、患者さんをすくうことができ、かつ生産性の向上に直結します。「いくら技術があっても食べていけない…」と、マーケティングを勉強した人がよく口にしています。もっともな話で、経営者になれば、技術力は経営努力の一部でしかありません。技術力を磨かずに売上を伸ばす方法もあります。でも、医療人としてのプライドを守りたいので、技術力の向上こそ我が道だと思っています。
そのためには、格段に上を行く技術が必要です。
■医療は引き算、慰安は足し算
ここで少し整理します。医療は、短時間短期間で終わりにできるほど優秀です。いっぽう、慰安的なものは、時間をかけるほど価値が上がります。

医療は引き算発想。余計なことを省きます。
慰安は足し算発想。余分に価値をつけます。
突き詰めていくと、鍼灸の施術はよりシンプルになっていきます。その結果、無駄な時間、無駄なコストが減って生産性が上がっていきます。引き算の発想で考えていくのが、医療を意識する鍼灸院の健全な形であると信じています。
私は、鍼灸院を経営するにあたり、患者さんの負担総額が少ない方が優秀であると考えています。10回で治るより5回で治った方が患者さんは嬉しいはずです。
こういう論を展開すると必ず「売上が半分になってしまう」と反対意見が出てきます。でも、実際には経営のマイナスにはなりません。2倍の患者さんが通院するようになるからです。10回通う人が5人いる鍼灸院と、5回通う人が10人いる鍼灸院。売上は同じになります。同じ人員でより多くの人に役立てるのは、言うまでもなく後者です。
こんなふうに言われることもあります。「日頃の体調管理で通いたい人を断るつもりですか?」と。体調管理を否定しているではなく、症状が落ち着いたら離れるのが自然で、体調管理で通院したいのも当然、とそのまま受け入れています。成り行きに任せていたら、2割程度の方が体調管理で通院されるようになりました。
つづく…(その5)
◎関連施設
・養気院(群馬県伊勢崎市)
・カポス(東京都港区/品川駅)
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