医療、慰安、美容の間でただよう鍼灸師

■セミナーと社員教育の決定的な違い

本格的にセミナー講師をするようになって6年が経ち、品川に鍼灸院を作ってから1年半が経ちました。どちらも「教える」という点では共通しているのですが決定的に違うことがあります。

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セミナーでは主に技術を指導しているので、理論、手順、コツをできるだけシンプルに伝えることが主な仕事です。限られた時間の中でどこまで多くを伝えられるかを考えています。価値を高めるためにプロセスを単純化できるかどうかが勝負だと思っています。平たく言えば、自分と同じ苦労をさせたら負けなのです。

いっぽう、社員教育は違います。私がどういうプロセスで今に至ったのか、つまりストーリーを時間をかけて伝えるようにしています。

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ここにある技術は何となく存在しているのではなく、何かを克服する試行錯誤の中から生まれたものです。鍼の数が少ないのも、短時間なのも、マッサージをしないのも、全てに明確な理由があります。セミナーでは技術論として理由を説明していますが、本来は、「患者さんにどんな価値を提供したいのか」という私の想いや思想から始まったことです。

肩書きは同じ鍼灸師でも、時には異業種と言った方が良いほど、やっていることは違います。たとえば、最近では美容に鍼が利用されることが増えてきました。私の鍼灸院でも話題になることがあるのですが、少し距離を置いています。なぜなら、難聴や耳鳴で悩む人と同じ括りで考えられないからです。どちらの分野も鍼灸ですが、目的が異なるのです。鍼灸師は免許でしかありません。

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美容目的の鍼ならばエステサロンが競合になっても、病院の耳鼻科と競合することはありません。逆に、難聴や耳鳴の治療に力を注ぐ鍼灸院はエステサロンと競合しません。鍼灸師だからと言って「鍼灸院経営」という一つの括りで考えてしまうと大きな失敗をしてしまいます。まず、「鍼を使って何をしようとしているのか」をスタッフ全員が理解していないと、さまざまな場面でズレが生じてしまいます。

基本中の基本は、「医療」「慰安」「美容」は完全に分けておかなければなりません。それぞれの分野で重要なものが違います。提供しなければいけない価値が違います。このブログでも古い記事になりますが、医療と慰安の差違については何度か触れたことがあります。この機会にまとめてみました。

■医療と慰安の違い(まとめ)

<提供する立場から>
医療 依存されない関係に導く
慰安 依存を積極的に受ける

<受け手の立場から>
医療 現状を変える行動
慰安 現状からの逃避

Kプロジェクトのプロローグより(2013年6月19日)>

医療 その後の時間の価値を上げる努力が必要。例として手術の時間が好きという患者さんはいない。手術後に得られるものを期待して手術を受ける。
慰安 施術中の時間の価値を上げる努力が必要。お客さんもその時間を買うという感覚。

時間の価値を変えるより(2014年5月15日)>

かみ砕いてしまえば、

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医療 患者さんと接していない時間の価値を高めることが目的
慰安 お客さんと接している時間の価値を高めることが目的
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と言うことができます。

こういうことを理解しないまま、医療を目指す鍼灸院がリラクゼーション(慰安)の分野からノウハウを移植すると失敗することがあります。医療人を目指す人が、リラクゼーションサロンを競合(ライバル)と考えるという根本的なミスをしている姿を時々見ます。

■そもそも治療家って誰?

一般にはあまり知られていませんが「治療家」という言葉があります。しかし、よくよく考えてみれば「治療家」という言葉に明確な定義などなく、誰かが勝手に使い出して広がったものです。医療を目的とする施術者も、慰安を目的とする施術者も使っている便利なカテゴリです。両方を包括する便利な言葉でもあります。

確かに、リラクゼーションしながら病気が治る例もあり、医療の中にも慰安的要素が入り込むことができます。「境界線などない」という主張もあるでしょう。ただ、分かって「間を狙う」のと、分からずに「どっちつかず」になるのは違います。

ついでに言えば、「技術」という言葉も医療と慰安では次元が異なります。医療であるならば、患者さんが「治る」ことにフォーカスをした基準がありますし、慰安であるならば、お客さんが「気持ちいい」ことにフォーカスした基準があります。

こうした根本を理解せず「技術を磨く」と言ったところで何の意味もありません。医療人として技術を磨いている私がリラクゼーションサロンに就職したら、おそらく1日でクビでしょう。「あいつ使えねー」と言われるに違いありません。

■医療施設の中のリラクゼーション

一つ気を付けなければならないのは、医療施設だからと言って鍼灸師に医療を求められているわけではないことです。私が就職した整形外科クリニックは、患者さんの「気持ちよく揉んで」に応えるために鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師を雇っていたので、求められていた仕事はリラクぜーションでした(もちろん公にも職員に対しても医療です。ただ実際は…という意味)。「医療現場を経験したい」と思って就職した私の欲求に応えてくれる現場ではなかったのです。

当時は世間知らずで今ほど頭が整理できていませんでしたから、「おかしい」という違和感だけで職場を変えたのです。医療と慰安の違いは、就職するにしても、開業するにしても、コンサルを受けるにしても、技術セミナーに参加するにしても、いつでも意識しておくべき事項です。そうすれば、根本的なミスはしないと思います。

今回は触れませんでしたが、美容についても考えておく必要があります。

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