■鍼灸師のための柔術ワークショップ
8月8日(月)は、活法研究会で八光流柔術の広沢先生(豊和会代表)をお呼びして脱力の重要性を学ぶ機会を作りました。本来は1日かけて行うワークショップでしたが、特別に2時間半に凝縮して頂きました。会員の皆さんに混じって一緒に頭と体に汗を流してきました。
本当に楽しかったので、油断するとただ「楽しかったぁ~♪」という感想で終わってしまうので、早めに整理しておこうと思います。それでは「つながる身体のワークショップ」のレポート始めます。

まず、全体を通して思ったのは、この内容を実際の臨床に活かせるかどうかは、受け取る側次第だと思いました。そもそも、このセミナーのテーマが「本質の追究」なので簡単なはずがありません。そういう意味では、今回の内容を本気で追究しようと思ったら覚悟が必要です。
それを一言で表せば、こうなります。
「大事なのはとってもよく分かる。でも、出来るようになるまで大変だな~」
当たり前ですが、本質を追究するのは時間も覚悟も必要です。広沢先生によると、本質の追究に欠かせないのが「脱力」です。いかに無駄な力を抜けるか、ということです。
■本質の追究
武術に限らず、スポーツの世界でも、無駄な力を抜く重要性は言われています。何が無駄なのかが分からなければ、どうして良いのかわかりません。だから「無駄を知る」が最初の一歩です。キーワードは「重力」でした。
ワークを通じて、重力に対して無駄な抵抗をしているのかを確認しました。無駄を感じるだけで精一杯。広沢先生のように脱力できるわけではありません。先生のデモンストレーション=身体操作(動き)は本当に見事でした。思わず「おおぅ、スゲー!」と声が出ました。

個人的に、体の使い方を学ぶワークショップは大好きで、学生時代には積極的に参加していました。いつも思うのは、思い通りに動くことの難しさです。活法でも「自分の体が操れないようでは、人の体は操れない」と教わっています。
本質の追究は大事です。ただ、本質だけでは勝負になりません。本質を完璧にしてから具体的な部分を磨こうと思っても、それを許してくれる環境なんてありません。小手先なものだとしても、具体的な実践テクニックを研磨しながら、本質の追究を行うのが大方です。
鍼灸師であれば、鍼の選び方、使い方、衛生面の管理など、具体的な知識や手順が必要です。活法にも、技一つ一つの手順や位置取りなど、具体的なポイントがあります。
よい仕事をするためには、本質の追究と同時に、専門的で具体的なスキルを身につけなければなりません。
実践の繰り返しから本質に気が付くという場面もあるわけで、経験を重ねることで「脱力する」重要性に気が付く場合もあるでしょう。
■柔術で鍼灸や整体が上手くなるのか
活法を追究する者として、もっともシンプルな問いかけは、「柔術が上手になれば活法が上手になるのか」です。「はい」でもあるし「いいえ」でもあるように思います。柔術がいかに優れていても活法の“技”に関心がなければ、上手くなることはありません。コインを裏返す気持ちがなければ、裏側の絵柄は一生見ることができません。
では、コインの両面を均等に見ながら進むのが近道なのでしょうか。想像すると難しそうです。なぜなら、患者さんを診る時間が二分の一になってしまうからです。臨床に関わる時間が1日8時間だとして、半分の4時間を柔術に費やしたら、残りの4時間で臨床の成果を出さなければなりません。少なくとも従来比2倍の効率が必要です。生き方としてはアリかもしれませんが施術家として一つでも高いところを目指すには選択できません。

■脱力の重要性
「脱力」で得られることを私なりに2つに絞ってみました。
1.効率のよい体の使い方(疲れない体の使い方)
2.相手の緊張を解く自分の在り方
1の「効率のよい体の使い方(疲れない体の使い方)」は、どんな仕事にも共通する課題だと思います。同じエネルギーで多くの仕事がこなせたら収入は増えますし、同じ収入なら疲れない方がよいです。
効率を極めている人の方が、仕事を覚えるのが圧倒的に速いだろうと思います。ただ、効率を極めるまでの間、何も生産できません。現実的には、仕事をしながら効率を高めるというプロセスを踏んでいかなければなりません。
最高の燃費を実現するエンジンが出来たからクルマを生産するメーカーはどこにもなく、クルマを生産しているからこそ、燃費を追究する価値に気が付きます。自分の仕事に置き換えると、施術という業務の中で無駄に気が付ける感性が大事になると思います。また、仲間と一緒に練習することで気が付く場面も多いです。そうした取り組みが、まさに活法研究会です。
2の「相手の緊張を解く自分の在り方」は、自分の仕事に直結します。緊張を解くことが仕事の半分程度を占めると言ってもいいかもしれません。痛みの多くが筋肉の緊張によって引き起こされているからです。ただ、その筋肉を緩めるためには、精神も緩めておかなければなりません。警戒して緊張して発汗している人の筋肉はなかなか緩みません。
緊張が邪魔をするのは筋肉に限りません。全ての治療において余計な緊張は治癒力を妨害すると言ってもよいでしょう。自分が緊張していれば相手も緊張します。だから、来院した患者さんのために自分が緊張しないように気を付けています。とはいえ、自分の緊張はなかなか分からないもの。自分の緊張の在りかを知るという意味で、広沢先生のトレーニングは役立ちます。

■脱力の限界
脱力だけですべてがうまく行くとは思いません。そもそも、完全な脱力では動けないので、必要な緊張は残さなければなりません。突きつめれば、脱力とは(パフォーマンスに必要な)緊張を残し、(パフォーマンスを下げる)緊張を解くように自分をコントロールすることです。立っている状態での脱力では、立った状態を維持する筋緊張はどうしても必要です。
何も考えずに脱力だけを追究した場合、目的とするパフォーマンスが低下してしまうリスクは潜んでいると感じます。ちょっとくらいの“力み”では仕事は崩壊しません。

今回のワークショップは、たったの2時間半ですから、個別のパフォーマンスに言及する時間はありませんでした。脱力によって潜在能力を引き出すには、「どこをどこまで脱力するか」という領域まで入っていかないと難しいと思いました。
私が使う整動鍼の話になりますが、整動鍼は不要な緊張を見つけることに長けています。苦手な動きを特定することで、緊張の在りかがわかるようになっています。その緊張の在りかが、いわゆる整動穴(ツボ)です。このツボは解剖学では説明がつきにくい場所にあることが多いです。
「不要な緊張の在りかを知る法則」
実は、不要な緊張は動きを観察するとわかります。痛みや違和感を伴う時、その裏側には不要な緊張があります。それを解くと症状が改善します。鍼という道具を使うことで、相手の体の特定部分を簡単に緩めることができます。そこそこ上手に鍼を使えれば、術者の脱力とは無関係に緩みます。そこが鍼の良いところであると同時に、鍼灸家は道具に甘えがちになります。
■力で勝負しない生き方
柔術のワークショップを受ける少し前、合気道のワークショップにも参加してきました。共通することは「力を衝突させたらダメ」ってことです。2つの力が正面衝突してしまうと、相手も自分も緊張します。その緊張をあえて利用する活法もあるので、一概にNGとは言い切れませんが、疲れない関係、緊張しない関係を創り出す上では異論なしです。
合気道のワークショップでは、封じられても動ける場所があることを教わりました。どんなに追い込まれても、動ける場所があります。教えてもらって「あ、確かに!」となります。
私が独立して間もない頃、金銭的に追い込まれましたが、インターネットで情報を発信する環境は残っていました。当時は「そうするしかない」と無我夢中に情報発信をしていましたが、今思えば、動けるところから動けた好例だったのだと思います。
柔術のワークショップでは「存在」をコントロールするヒントを学べたと思います(ワークショップではこういう言い方はしませんでしたが…)。相手にとって自分がどういう存在であるかは、相手が決めているのではなく自分が決めているのです。上記の通り、生きている以上は、完全脱力はあり得ないので、私には「脱力」より「脱力感」の方がわかりやすいと思いました。私たち施術者の脱力感は、患者さんの体に影響を与えることは間違いありません(それだけでは治療にはなりませんが…)。

■コトバの脱力
言葉にも力があります。そのまま相手にぶつけると、心に正面衝突してしまうことがあります。特に、自分に自信がある時ほど、言葉に気を付けなければならないのかもしれません。「言葉も脱力させた方がいいなぁ」と、この機会に思いました。
広沢先生のワークショップで繰り返されていた「受け入れてから出す」という表現。そのまま言葉にも当てはまるはずです。コミュニケーションの基本は相手の言葉を受け入れることからだと思います。分かってはいても、ついつい自分の主張が先行してしまいます…。
言葉を変えるには思考レベルから変わらなければいけないし、言葉を気を付けることが思考を変える早道になるかもしれません。言葉と思考は密接な関係にありますから。
「相手の言葉を受け入れ、その言葉とぶつからない言葉を返す」
言うは易く行うは難しです。まず「自分が正解」と思うことをやめなければなりません。相手の言葉が自分の意見や考えと違っていても、それを受け入れる。確かにそれができる人っています。そういう人の前では「ちっちぇーな自分」と思います。
脱力は技法でありながら、余裕が生む「在り方」でもあると思います。だから、言葉が脱力できていない時は自分に余裕がないのでしょう。修行あるのみです。
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