多体問題で考える医療と科学(1/6)「医療の正解が科学にない理由」

■3つ以上は計算できない現実

「多体問題(3体問題)」という言葉をご存じでしょうか。2つの物体の相互作用は厳密に計算できても、3つの物体の相互作用は解けないという限界を示したものです。物理学や数学の専門家ではないので正確な説明はできませんが、これを素人的に解釈するならば、A、B、Cとあった時、A-B間、B-C間、C-A間の関係をそれぞれ計算できても、「ABC」の関係は計算できないという話です。間違っていたらご指摘ください。

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この話を初めて聞いた時、たいへん驚きました。3つ以上の相互関係を数学的に解けないことが意外だったからです。この「多体問題」が突きつけた現実は、「結局、2つの相互関係しかわからない」ということです。これは数学の世界での話ですから、実際の社会で人間は3つ以上の相互関係を直感的に計算して生活しているわけです。

人間は数学で計算できないことを計算する能力があります。数学の答えは1つですが、人間が出す答えは無数です。ここに人間の難しさと面白さがあります。

■サイエンスでありファッションである

実際のところ、生きていくためには、直感的に多体問題を乗り越えていかなければなりません。医療でも言えることです。病気や怪我の治療は多体問題そのものです。A、B、C…と要素がありすぎて数学的な計算は到底不可能です。

ですから、医療には直感力は不可欠です。「コンピューター診断+処方」は、まだまだ先の話です。症状の一要素を抜き出して答えを出せても、それが医療としての正解にはならないでしょう。

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たとえば、1つの症状を確実に治る答えを出せても、同時に起こる10の副作用を予測できない可能性があります。病気が治っても薬の副作用で苦しむ現実を迎えてしまっては意味がありません。ただ、この問題は、コンピューター診断うんぬん言う前に、医師が機械的判断で処方すれば起こり得るものです。

結局、「診断+処方」は人間が直感的に決めるしかありません。ただ、「直感的に」という意味は、「思いつき」ではありません。数ある現象(検査数値や症状など)の中から重要な要素を抜き出して、それを指標にします。医師や医療者が理解できる範囲に絞り込む作業が必要です。

「何が重要であるか」という抜き出しは、時代、宗教、社会的背景、そして個人の価値観によって変わる流動的なものです。医療はサイエンスの仮面を付けたファッションと言えるのです。サイエンス(科学)とファッション(流行)、どちらも否定することはできません。

サイエンスとファッション

医療は科学と共に発展しています。だからといって、医療を科学にしたら医療ではなくなるのです。医療は「人間の生き方」という科学では解けない問題を常に抱えているからです。患者さんは、科学的な正解を欲しいのではなく、苦しみや辛さから解放される方法が欲しいのです。苦しみや辛さがどこからやってくるのか、科学では説明できません。

医療は時代で変わります。医療からファッションの要素は取り去ることができません。100年前と今とでは、技術も違いますがトレンドも違います。その時代が必要とする医療のカタチがあるのです。もちろん、国や地域によっても違います。戦争との関係も親密です。調べればいくらでも出てきます。医療の発展の裏には闇の歴史があります。

<つづく…

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