『前編』のつづき
■身体の柱である経絡
今回は専門用語の登場が多めですが、話は難しくありませんので、気にせず読み進めてください。
鍼灸理論の基礎である経絡(けいらく)は、「経」という長い縦ラインに対して「絡」という短い横ラインで構成されています。言ってみれば、身体は「経」という柱に支えられているようなものです。

その柱は、太陰、厥陰、少陰、陽明、少陽、太陽という周囲に立つ6つと、正中の前を走る任脉と後ろを走る督脉です。こららの柱を整えることは、体の形や姿勢を維持するために重要です。この柱には実態はなく、仮想的かつ機能的な構造です。
こうした柱があると仮定に基づいて施術目標を立てると上手く行きやすいのです。経絡はツボで治療をする際にとても便利なシステムです。
特筆すべきは、この柱が内蔵の調子と相関関係があることです。たとえば、胃腸の調子が落ち込むと背中が丸くなる傾向を説明するのに経絡は便利です。この関係を逆方向に使えば、内臓の調整に使えます。

個人的見解は含まれますが、経絡とは治療システムを視覚的に表現したものです。文字で説明するより絵に描いた方がわかりやすいこと、多いですよね。恐れずに言えば、経絡とは、治療システムのガイドラインを絵にしたものです。
この経絡を出発点に姿勢の問題を考えることは意義がありますし、私が勉強会をする際にも重要視しています。ただし、条件は限定的です。同じ姿勢を維持し続けている場合に限られてしまうのです。「姿勢を保つ」という機能において重要ですが、伸ばしたリ縮めたり捻ったりと、積極的に動きを作る場合には不便に感じます。
■動きを説明できない経絡
ですから、経絡ベースに考えてしまうと運動器疾患への対応力に不満が残ります。運動器疾患になると、経絡を忘れたかのように解剖学的知識に頼ってしまいがちです。
経絡と運動器疾患が親密な関係でないことは、臨床経験のある鍼灸師なら気がついてます。ただ、そこをストレートに指摘することは鍼灸業界のタブーであり、おだやかな表現での指摘が目立ちます。
ここで、経絡を整理しておきましょう。臨床的な価値が見えてくるはずです。経絡の経はタテ線であり、これが柱です。絡はタテ線である経がバラバラにならないように束ねる働きがあります。経にも絡にも柔軟性があるので、柔軟性に富んでいるほど、しなやかな状態になります。理想のイメージは竹です。逆に悪いイメージは、ポキッと折れてしまいそうな乾燥してスカスカな枝です。
■回転軸としての脊柱
体は、しなやかに伸びたり縮んだりするだけでなく、関節でクッと曲がります。関節を軸とした回転運動があります。人体の運動はほぼ回転運動です。立つときも座るときも、歩くときも走る時も、そこには必ず回転運動があります。柔らかくて美しいと感じる動きほど、軌跡がなめらかです。

そもそも、経絡モデルには節がなく、人体の動きを説明できるシステムではないのです。経絡で運動器疾患を整えようとする発想に無理があるのです。
経絡は動きの軸になれないのですが、督脉だけは例外です。督脉は脊柱と一致するので、実態があり具体的な構造があります。
脊柱は、文字通りに身体の重要な柱でありながら、回転運動の軸となります。体の重さを支えながら運動時の物理学的な中心を担うことができます。支えながら軸になるという2つの役割を同時にこなしているのです。
説明するまでもありませんが、脊柱は、椎体と言われる単位が積み上がっていて、その数は、頚が7、胸が12、腰が5です。椎骨一つ一つに構造的な意味があり、一つ一つが特定の動きの際の中心を担うのです。
構造からみても機能からみても、脊柱の重要性は揺らぎません。その証拠に、脊柱を重視する療法が数え切れないほどあります。アプローチの仕方は違っていても、脊柱を重要視していることは共通しています。
■人体に張り巡らされている張力
鍼灸においても、脊柱を重視する流派はたくさんあり、その多くは脊柱に直接的な刺激をしています。しかし、回転軸としての脊柱を整えようと思ったら十分ではありません。なぜなら、脊柱は四肢と引っ張り合っているです。

四肢からアプローチし、四肢と脊柱の引っ張り合う力を調整することが、脊柱を整えることになります。そして、脊柱をが整うと体幹の軸が整って動きが改善します。姿勢に関わる、支える機能と動く機能が同時に改善するのです。
このように、張力と回転軸を意識した身体調整を「整動」という定義づけ、それをツボへの刺鍼で実践するのが整動鍼です。この特徴は脊柱の調整を行う時にもっとも際立ちます。整動らしさを最も強調したのが「脊柱編」です。この勉強会は次回も満席でご案内できませんが、経絡と運動器疾患との相性に疑問を抱いているすべての鍼灸師に参加して頂きたいと思っています。
■まとめ
前編、後編を通じて、姿勢は形ではなく動きの一部であると考える重要性をお伝えしてきました。つまり、姿勢を整えるということは、動きを整えることを意味します。その動きを整えるために必要な考え方は、身体中に張り巡らされた張力と、動きの中心になる回転軸です。
脊柱は、身体を支える主となる柱であると同時に、さまざまな動きの回転軸になる重要なところです。姿勢を整えるには、自由で柔軟な脊柱を取り戻すことが重要なのです。しかしながら、脊柱そのものにアプローチする方法には限界があるため、四肢のツボを上手に活用することが重要です。
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