(2)のつづき
安産のための身体
出産は命がけです。
医療が進歩して、どこかに「命は大丈夫」という心に隙があります。私も例外ではありません。お産を限りなく安全なものに近づけている産科関係者に感謝します。
いっぽうで、妊娠しているというだけで、何にでも警戒してしまったり、また特別感が度を超えて神聖化させてしまう傾向もあるように思います。背景に、「人間だけが特別」という価値観があるのかもしれません。
私はシンプルに考えています。人間はほ乳類だから犬や猫と基本的には同じだと思います。「完全に同じ」と言ってしまうと、お産の専門家からお叱りを受けると思うので「基本的には」にとどめておきます。

お産は理性が先行したらできないと思います。妻を見ていても、「産む」という内に秘めるエネルギーを使っているのであって、頭では産んでいません。
妊娠すると、産院でいろいろな知識を授けてくれます。ネットからもいろいろな情報を得ることができます。確かに知識は大事。
ただ、「股から人間を出す」という部分は知識ではないと思うのです。もう、そこはほ乳類の本能。母である前に人間であり、人間である前に動物です。
安産を願うとき、私がすべきことは本能の活性化です。簡単に言えば、安産の必要条件とは「産むという運動」を本能に任せてできる状態ということになります。
一つ付け加えると「産道が開く」という変化も大事です。必要な変化を助けて産むという運動を助ける、ということをどうやるかです。
「安産のため」としてよく知られているツボがあります。たとえば「三陰交(さんいんこう)」というツボはどこを見ても紹介されています。「三陰交が安産にいいらしい」という話を知識で得たとしても、「産む」という運動における位置づけがわかっていないと、儀礼的な使い方になってしまいます。
このように「お産」を運動の一つと考えるようになったのは、活法の影響です。普段の施術でも、ツボを選ぶ際にはどんな運動(動き)に関わりがあるのか、と考えるようになりました。
安産の活法(かっぽう)
「本能」をキーワードに語ってきましたが、活法はまさに本能の活性化するものです。人間が本来持っている力をどんどん引き出すことができます。
たとえば、筋肉が凝り固まって動かないのも、本来の筋力が出せない状態です。パワーだけでなく素早く滑らかに動くこともできません。こんな時は迅速かつ柔軟に対応できないので、怪我をしやすくなります。
見方を変えると、脳が筋肉に余計な制限をかけている状態です。制限は秩序を保つために必要ですが過剰になると動きを渋くしてしまいます。本来よりも動けない状態になります。そんな時は「動ける」という信号を脳に積極的に送り込むことで、本来の動きを取り戻すことができます。活法は、その具体的な方法の宝庫です。
実は、お産において特に注目している筋肉があります。それは大腰筋です。
腰椎から股関節の内側をつなぐ長い筋肉です。この筋肉の働きに制限がかかっている時は、子宮口が開きにくくなるようです。

助産師さんと交流が盛んな時期があって、活法をお産の現場に利用できないかと試行錯誤していました。活法による大腰筋の調整で、開きにくい子宮口が開きやすくなってという報告を何度も頂きました。「助産師+活法」という組み合わせが少ないので、エビデンスの話はできませんが、直感に相関関係はあります。
参考)産婆たけちゃんの活動日記

写真では、脚を引っ張っているだけのように見えますが、大腰筋が牽引されています(大腰筋の牽引)。

これは仙腸関節をゆっくり伸ばして緊張を解いています(骨盤はがし)。

内股を緩める効果が高い「昇り龍」というワザです。股関節の柔軟性が出るので、安産効果があると見込んでやりました。
これらの施術は当日の朝です。お産のだいたい12時間前です。
(ちなみにこの時は腎盂腎炎はすっかり治っています)

よい機会なので、スタッフの光山くんに、どれくらい変化するのか確認してもらいました。「こんなに変わるんですね!」と驚いた様子が印象的でした。
「産まれる直前のお腹なんて、何度も触れるものではないから触っておいた方がいいよ」と言ってみましたが、本当に直前のお腹となりました。
子宮に触れない子宮ケア
「お産の専門家でない鍼灸師が妊婦に触れても大丈夫なのか?」と思われるかもしれません。
もちろん、助産ができるほどの知識は鍼灸師にはありません。対象にしているのは、お産がしやすい筋肉のコンディションです。
子宮は体のあちこちから影響を受けています。精神的に緊張しただけでも子宮は張ってきます。腰痛がある人も子宮は硬くなります。子宮は筋肉なので、全身の骨格筋に合わせるように緊張します。
肩こりや腰痛を改善させると、子宮は柔らかく優しくなります。モーツァルトもいいけれど、その肩こりと腰痛では…と思うことがあります。
肩こりや腰痛も知れば知るほど奧が深く、内臓との関わりも肝心なのです。筋肉は内臓のコンディションを表しています。内臓も筋肉のコンディションに左右されています。
こうした部分は、産院では注目されません。だから、筋肉ケアがどれほど子宮ケアに直結するのか、お産に関わる方に伝えたくて仕方ありません。ただ、今はそれを軸に仕事をしていないので、静かにしています。
活法のような整体を使えば、股関節、仙腸関節、恥骨などのお産に直接関わる関節のケアが低刺激(歩行より低負荷・低刺激)でできます。またツボを利用すれば、手足からこれらの関節を調整することもできます。
こうして考えると、もっともリスク少なく妊婦さんのケアをできる職業だと言えます。もちろん、最低限の知識があることが条件になります。
次回は、分娩台での話になります。
◆関連記事
・鍼灸師とお産(1)
・鍼灸師とお産-第2章(1)

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