鍼灸師を苦しめている問題
鍼灸の免許を取って一生懸命やっていれば、難しい症状でも治せるようになって、いつか一流と呼ばれる・・・
そんな未来を描いている学生は少なくない気がします。私もなんとなく、そんなイメージを抱いていました。しかし、それは鍼灸師になって臨床に出た瞬間に崩れ去ります。
自分の成長曲線が全くイメージできないのです。
その理由は、トライアンドエラーが満足にできないからです。
どんな施術をしたら患者さんが良くなるのか、どんな施術をすると良くならないかを検証しながら、最適な施術を探していくのが本来です。
しかし、鍼灸ではその方法があいまいです。流派によっては脈診(橈骨動脈などの脈を術者が診る)だけだったり…と客観性があるとは言えないものが未だに残っています。
鍼灸といえばツボです。ツボ選びが鍼灸師の仕事の根幹です。「どのツボを使うか」は「選穴」と言われます。この選穴で鍼灸師の腕が決まると言ってもよいでしょう。
ツボ選びにおけるトライアンドエラーがとても大事なのです。要するに、ツボが効いたか効かなかったかを判断していくことです。しかし、この当たり前とも言える作業が満足にできません。ここが鍼灸師の弱点であり、鍼灸業界を混迷させています。
ツボにはどんな効果があるのか・・・
こんな当たり前のことがわかっていないのです。共通の見解がなく流派によって言っていることがバラバラです。
古典に書いてあるとか、著名な先生が言ったという理由だけで検証されることもなく、効くと信じて使い続けられています。疑ってはいけない空気で満ちています。
鍼灸を信じる必要はない
鍼灸は伝統医学です。先人に敬意を払うことは大切ですが、疑うことを放棄してしまったら信仰です。「そういうものだ」と信じることをしなければ始まらないのであれば宗教です。
鍼灸について「信じる」とか「信じない」とか言う人がいますが、そもそも、そういう話がナンセンスです。信じると信じないとか、何なのでしょうか。
鍼灸は信仰の対象ではありません。鍼灸は効くこともあるし、効かないこともある、というだけです。薬に置き換えれば誰も疑いません。症状によって効くことも効かないこともあるのは当たり前です。もちろん鍼灸師の腕の差も如実に出ます。
私たち専門家が約束すべきことは、鍼灸治療がどういう場合に効いて、どういう場合に効かないのかを把握しておくことです。そして、自分の得意分野をしっかり認識しておくことです。
鍼灸は医学です。でも、現代においてそういう地位で見てもらえないのは、効果を数値で説明できないことが大きな原因だと私は思います。
芸を磨いても鍼灸師は信用されない
ツボの「効く-効かない」を見極める能力が鍼灸師のスキルです。
効いているかどうかを判断できないのであれば、何年何十年やっても「慣れ」が積もるだけです。個人の中に非言語的な“何か”が蓄積されても、学術は発展しません。50年やって得られるのは“慣れ”だけです。
自分以外の人が再現できないものは“芸”です。鍼灸の世界には、名人芸のようなものは存在しますし、そのパフォーマンスを否定するつもりはありません。ただ、そういうパフォーマンスのベースは個性であると思っています。そういう鍼灸師の周りにはファンが集まります。タレントとして成功しているのです。
憧れるのは自由ですが、芸と技術はしっかり区別すべきです。
鍼灸で大事なのは間違いなく技術の方です。同じことが何度もできる再現性が大事です。再現性のあることをやることが、団体として組織として、職業として信用される近道です。
ツボの効果をフィードバックする
「鍼灸師にいちばん必要なものは何ですか?」と尋ねて「人間性」という答えが返ってきたら注意しています。人間性(イイヒト)では患者さんを救えませんから。患者さんを救いたいと思うなら技術を磨くしかありません。
トライアンドエラーには結果のフィードバックが不可欠です。ツボに鍼を1本したら、その場で効果を判定できなければなりません。しかし、これがやっかいなのです。客観的な判定が難しいからです。
私は“動き”を指標にすることにしています。動きなら客観的な指標にできます。動きに違いが出ていれば効果ありと判断します。仮に痛みが残っていても、動きが改善していれば効果ありと言えるのです。
判断指標があれば、1年でも大成長できるチャンスがあります。もし、何もなければ何年続けても同じです。何となく「上手になったかなぁ~」と思う程度です。自分の成長曲線をイメージできなくなったら、仕事として面白くありませんし、患者さんに成長を期待して頂くこともできません。
技術が向上すればその分だけ責任も増えます。その責任を全うしていくことで、人間的に成長できるのだと思います。技術が人間性を育ててくれます。
スパイダーマンの「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という台詞が好きです。
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