「日本の鍼灸が世界から評価される日(2)」のつづき
鍼灸理論が発展途上であることは現場が証明している
鍼灸のメソッドは世界中に溢れています。しかし、理論と実践が整合しているものは希少です。感覚的な話になりますが、世界の鍼灸家の平均を取ると「理論:感性=2:8」程度ではないでしょうか。
この比率については私の感覚でしかないので諸々のご意見があろうかと思います。しかし、判断の大半を感性に依存しなければいけない状況は多くの鍼灸師から支持を得られると思います。鍼灸の発展は、感性への依存度を下げると定義するならば、鍼灸理論は発展途上と認定するのが妥当です。
「鍼灸学はすでに完成された伝統医学なのだ」という意識を捨てた者にしかチャンスは訪れません。誤解しないで頂きたいのは、伝統や歴史を否定する思想ではありません。今の鍼灸があるのは先達のおかげです。危惧しているのは、「鍼灸の価値は歴史が証明しているのだ」という発想からくる思考停止です。
経絡は発見されたものではない
多くの日本の鍼灸師がこうした考え方に賛同してくださるとありがたいのですが、そう簡単にはいかないでしょう。なぜなら「経絡は中国医学の起源となった最大の発見である」という誤解が蔓延しているからです。
実在する経絡を誰も証明できていないのですから「発見」と表現するのは不適切なのです。妥当なのは「経絡は中国医学の発展の契機となった理論である」という表現です。
誤解が蔓延する理由はどこにあるのでしょうか。昨今の学生がどのような教育を受けているのかわかりませんが、私の時代は、「経絡が存在するもの」という前提がありました。
経絡の起源や変遷を教わる時間はありませんでしたし、古典によって走向が違うことも説明されていません。経絡だけでなく、ツボの位置も書物や時代によって異なります。WHO準拠のツボの位置も、会議によって決められたものです。実験に基づくものではないのです。
こうしたバックボーンを知らないまま、経絡の名前と走向を覚えて、ツボの名前と位置を覚えていくことは極めて危険です。健康被害の心配はありませんが、鍼灸の発展を大きく阻害するという意味で、とても危険なのです。
これからの鍼灸師には「発見」と「制定」をしっかり意識しながら学んでほしいと思います。
世間に蔓延しているツボの不確かな効果
ツボの効果も「~らしい」ということで広がっています。ネット上で見かけるツボの効能は根拠が怪しいものばかりです。エビデンス(科学的根拠)がないものばかりです。
「そんなに神経質になることはない」という意見もあります。「エビデンスがなくても健康被害は出ることはないし、効果があったらラッキーなのでとりあえずツボ押しを試してみたい」という方がほとんどだからです。確かに、ツボ押しを誤った程度で死亡したり病気になったりすることはないでしょう。その前に押したツボが悲鳴をあげるからです。
でも待ってください。これを全面的に許してしまうと、有名な占い師の発言が正しいとされる風潮と何が違うのでしょうか。もちろん、ツボの情報を流す鍼灸師に悪意はありません。誰かの役に立つから発信しているのです。そのサービス精神は大切にしてほしいのですが、エビデンスを無視した情報発信が当たり前となっては、なおさら医療から遠ざかってしまいます。
問題を指摘するだけなら簡単です。実際に、根拠を示していこうとすると本当に大変です。鍼灸師が背伸びしてできるものではありません。お金と時間、そしてそこに従事する人材が必要です。現実を考えれば、そんなに簡単に手を出せるものではありません。
症例からツボのデータベースをつくる事業が進行中
とはいえ、ツボの研究に取り組む鍼灸師は日本にもいます。話があれば協力したいと思っていますが、私もできることを考えて取り組んでいます。
2018年8月から、ツボのデータベースをつくるためにツボネットを運営しています。具体的な構想が始まったのは2016年で2年間かけてシステムをつくりました。今でもアップデートを続けています。
ここに症例を投稿できるのは、今は限られた鍼灸師です。私が主宰する団体「整動協会」の会員で一定の条件を満たしている人たちです。無償で症例を提供してくれています。現時点では、信頼できる仲間に限定しています。質に重点を置くためです。
時に「業界が一つになって、流派に関係なくやらなければ意味がない」というご批判を頂きますが、今の私には業界を一つにする力はありませんし、バラバラな理論とツボの位置をまとめる力もありません。批判は仕方ないと割り切り、このままできる範囲でやっていきます。
症例は、ネットで完全に公開されているのでどなたでも閲覧することができます。現在1800症例を超えているので、夏には2000症例を超えそうな勢いです。ここに症例を登録した鍼灸院に予約が入りやすくなるので、鍼灸院にとっても利益があります。
もちろん、症例集はエビデンスがあるとは言えませんが、数が増えていけば自ずと統計学的な価値が高くなっていきます。「○○(症状)には△△(ツボ)が使われている」という傾向を拾い出すことが出来ます。しかも、ここに症例を登録している鍼灸師は気ままにツボを選んでいるわけではありません。経絡に依存しない新しい理論に基づいてツボを選んでいます。理論の妥当性を確かめていくプロジェクトでもあります。
まとめると、次の3つのことを同時に行っているのです。
①症例を集めてツボの統計をとる
②症例を登録する鍼灸院に患者さんが集まる
③新しい理論の妥当性を確かめる
現在は、経済的な利益が②に限定されてしまいますが、将来的には①と③からも利益を生み出し、次のステップに向けて投資をしていく予定です。
次回は、計画中の具体的な教育事業について書きます。
つづく…(4)
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