「日本の鍼灸が世界から評価される日(1)」のつづき
経絡(けいらく)は正しいのか
中国においても日本においても、経絡は鍼灸家の拠り所です。当たり前のように説かれている経絡ですが、未だにその存在は証明されていません。経絡は鍼独自のもので、この経絡上にツボがあるという設定です。経絡を理解し駆使することで鍼灸家は力を発揮できることになっています。
中医学の鍼灸理論においても経絡は重要な位置づけです。穴性と経絡は合わせて使えるようになっています。
鍼灸師にも選択する権利があります。この証明されていない経絡を拠り所にするのも、別の違う拠り所を探し求めるのも自由です。「経絡はあるのが当然で疑う余地がない」と考えるのも「経絡は作業仮説の一つでしかない」と考えるのも自由なのです。ただし、日本においてはの話です。
中国において経絡は中医鍼灸のアイデンティティそのものです。証明を待っている存在であるため「実在しない」という結論が存在していないのです。
おわかりでしょうか。中医学の悪口を罰するということは、あるかどうかわからない経絡を証明する方向にしか進めないのです。中国が経絡に縛られている間に、日本は経絡に依存しない鍼灸を創造する自由があるのです。
中国は世界の鍼灸をお金で操ろうしている!?
中国が身動き取れなくなっている間に、日本の鍼灸が世界を席巻したとしても、ビジネスモデルが用意されていなければ、気分のよさを味わうだけになってしまいます。
日本が世界の鍼灸をリードしていくには学術面だけでなく、ビジネスに乗せていく必要があります。そもそも中国が中医学で覇権を握ろうとしているのはビジネスになるからです。世界の鍼灸業界をお金で操るできるようになります。その影響は間違いなく日本にも及んできます。
中国の鍼灸が名実ともに世界一であれば見習うべきでしょう。しかし、中国で生まれたラーメンが日本で大きな発展を遂げたように、日本人は鍼灸を大きく発展させる力があります。
ビジネスの軸足になるのは漢方薬!?
日本では、鍼灸師がそれぞれ自分の道を目指してがんばることで鍼灸は発展すると考えが好まれています。鍼灸は「アート」であり「生き方」というならそうかもしれません。でも、今考えたいのは「医療」としての鍼灸です。
中国が国家レベルで覇権を握ろうとしているのは医療としての鍼灸です。薬と鍼の世界標準になろうとしています。ビジネスになるのは薬の方でしょうが、鍼とセットにすることで価値を高めようとしているのだと思います。薬の場合は薬の輸出というビジネスにつなげることができますが、鍼の場合はビジネスにつなげるのは簡単ではありません。中国針の輸出につなげられたとしても薬のように、国家レベルから見たら大きな利益にはなりません。
鍼という道具は施術者が価値を生み出すもので、単独では価値が生み出せません。価値のウエイトは人材です。このように考えると、教育ビジネスが視野に入っているかもしれませんが、利益を生むのに有利な薬が軸足になることは間違いありません。
日本にもいわゆる漢方薬がありますが、その多くはエキス剤と言われている粉薬で、本来の煎じる漢方薬とは違います。しかも、それらの漢方薬は病院で処方されるので鍼灸師は関われません。明治以降の日本は薬と鍼の畑が別々になってしまいました。
しかも、日本で中医学を学んでいる医師はほとんどいませんから、漢方薬を出してもらったときにそれが中医学と言えるかどうかは疑問です。本来は、中医学の診断学で薬は判断されるべきですが、中医学がわからなくても処方できるように「○○な症状の時には○○」と簡易化されています。中医学を学んだことがある人なら、誰でも西洋薬と一緒に漢方薬が処方されることに違和感を抱きます。
日本の鍼灸師は今こそ世界に日本の技術をアピールすべき
中国のように鍼と薬をペアにできない日本では、鍼灸の価値は鍼灸単独で高めていくしかありません。鍼灸師の価値が日本の鍼灸の価値を決定する最大で唯一の要素です。
鍼灸院は鍼灸師一人で始められます。100万円くらいの資本があれば開業に漕ぎ着けることができます。完全にスモールビジネスが前提です。中国のように世界戦略を描くことなく、市町村の攻略に終始するのです。世界で勝負するという発想が生まれませんし、世界で日本の鍼灸が認められたとしても経済的なメリットに結びつけられません。国益にもなりませんから、政府が鍼灸師を支援することもないでしょう。
目の前にある前提を変えなければ、日本の鍼灸はずっとローカルです。鍼灸のガラパゴス化になんとも思わなければそれまでですが、ちょっと発想を変えてみたいのです。
日本は、中国のように薬の利益に依存できないわけですから、鍼灸で勝負するしかありません。ということは、日本の方が高いレベルが要求されます。嬉しいことに、日本の鍼灸師は海外では高く評価されます。日本人ほど繊細な施術をする鍼灸家は世界のどこにもいません。
これはひとえに鍼灸師一人ひとりの努力のたまものです。免許取得後にスキルを磨く場もありません。未熟な頃からなんとか患者さんの信用を得るために試行錯誤を重ねるのです。ふつうなら挫折してしまうような状況を乗り越えていくのが日本の鍼灸師です。
ただし課題もあります。鍼灸師は個々にスキルアップをしているために、統一された技術がありません。日本の鍼灸も定義が存在するわけではなく、なんとなく日本人っぽい鍼灸があるだけなのです。高い評価の裏付けとなる技術保証ができないのが本当に残念です。
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