【ハゲタカ/NHK】経営のカリスマ=大木昇三郎の「やりなおしたいんなら何もやらないことだよ」の意味がわかった

奇跡のドラマ「ハゲタカ」(NHK)

『ハゲタカ(NHK/土曜ドラマ)』が6月~7月に再放送された。2007年に放送されてから15年経つが、今でも熱狂的なファンがいる。私がその一人である。録画したものを何度観たかわからない。このドラマは奇跡だ。脚本、俳優、演技、演出、音楽、どれ一つ欠けてもこの奇跡は生まれなかっただろう。

ハゲタカ再放送

バブル崩壊後、瀕死の日本経済を舞台に荒稼ぎした外資ファンド「ハゲタカ」。敏腕ファンドマネージャーとして、次々と企業を買収し「ハゲタカ」と呼ばれる鷲津と、鷲津に正面から戦いを挑むエリート銀行マン芝野。2人のせめぎ合いを通し、企業買収の功罪、金に躍らされる人間の悲劇、会社の意味を浮き彫りにする。 (公式サイトより)

 お金とは…
 会社とは…
 幸せとは…

バブル崩壊後の日本を舞台に、展開される企業の買収劇、そして再生劇。二人の男が登場する、一人は大森南朋が演じる、投資ファンド社長の鷲津政彦。もう一人は柴田恭兵が演じる、エリート銀行マンの芝野健夫。

15年かけて説いたナゾ

この記事の目的はドラマ『ハゲタカ』のあらすじを紹介することではない。15年間ずっとわからなかった謎が解けたことを、どこにいるかもわからない仲間(=ハゲタカファン)に報告するためだ。「ハゲタカってなに?」という人は、ここから先を読んでも面白くないだろう。だから、まずはハゲタカを観ろ。

むろん、ネタバレに配慮して書くなんて芸当は持ち合わせていない。しかし安心してほしい。ここでネタをバラしたとしても、ハゲタカの魅力が薄れることは絶対にない。そんなやわなドラマではないのだ。

このドラマには数多くの名言がある。その中に多くのファンを悩ませた台詞がある。

「やりなおしたいんなら何もやらないことだよ」

菅原文太演じる大木昇三郎(大手家電メーカー会長)が鷲津政彦に伝えた言葉だ。何度観てもこの言葉の意味がわからず悩んでいた(少なくとも10回以上はこのドラマを観た)。この台詞がこのドラマを解釈する上で極めて重要であることは間違いない。しかし、この台詞の謎を解いた者はいないのだ。少なくとも、私が納得できる解釈はどこを探してもなかった。

気を抜いていれば一瞬で過ぎ去ってしまうシーンだ。言葉をそのまま受け取ると意味が分からない。大木会長に言われた鷲津の表情も困惑していたように見える。

ネタバレになるが、この台詞に至る流れをかんたんに説明しておこう。

経営のカリスマが招いた赤字800億円

大空電機は日本を代表する総合家電メーカー。その大空電気が800億円の赤字を計上し倒産の危機に陥っていた。そこに目を付けたのが外資系投資ファンド「ホライズン・インベストメントワークス」。大空電機の株を大量に買い筆頭株主となる。大空電機の経営権を握って立て直そうとする。

リストラを頑なに拒む大木(会長)、会社を存続させるにはリストラはやむを得ないと考える鷲津(投資ファンド社長)。大木は、本田宗一郎、松下幸之助を連想させる経営の神様と称される男。しかし、そんな経営者も800億円という巨額の赤字を計上し、カリスマが時代に取り残されそうになっていた。

銀行マンから外資系投資ファンドへ

いっぽう、鷲津は元銀行マン。新人の頃、上司からの命令で融資を渋った結果、町工場の社長が自殺した。それをきっかけに銀行を去った。このドラマは、その鷲津がアメリカに渡り投資ファンドの日本法人の社長として日本に戻ってくるところから始まる。

経営に行き詰まった起業を買収し転売することで巨額の利益を得ていた鷲津は、世間からは金の亡者として扱われていた。しかし、それは仮の姿だった。ドラマが進行するにしたがって鷲津の本当の目的が明かされていく。

末期癌で余命わずかの大木会長に呼びだされた鷲津は、大木に巨額の赤字をつくった責任を問いかける。「企業も生き物です。あなたが死んだ後も生き延びなければいけない」と。

謎の台詞が出るのはこの後だ。

「やりなおしたいんなら何もやらないことだよ」

この台詞に鷲津も視聴者も困惑する。いや、それは違う。今ようやくわかった。鷲津は困惑していたのではなく動揺していたのだ。大木会長に見抜かれていたからだ。

鷲津の「日本を救う」は本当だった

鷲津は、銀行マン時代に人を死に追いやってしまったことを引きずっていた。そんな鷲津がハゲタカと揶揄される投資ファンドに身を移した経緯は詳しく説明されていない。この余白によってそれぞれの鷲津像が描かれるのである。この不親切な設定が、このドラマの魅力を深めている。

例の台詞の解くきっかけとなったのがこの本である。

もちろん、本当の答えではないかもしれない。でもそれでよいのだ。自分なりの答えを見つけることに意味があるのだ。

『欲ばらないこと』は仏教の教えを説いている。「生きることは苦である」とのことだ。

生きることはただでさえ「苦」なのに、生きることに執着することでもっと苦しみから逃れられなくなる、その執着が「欲」です。

鷲津は、町工場の倒産という企業の死が人命を奪うという現実を目の当たりにしたことから、「企業はどんな手段を使おうが生き延びなけれならない」と考えるようになったのだ。アメリカの投資ファンドに身を移したのも、不良債権処理に疲弊している日本の銀行では、企業を救うための資金を用意できないと考えたからであろう。もちろん、これも私の想像として語っている。

日本企業を外資で買い叩く鷲津の「日本を救いに来た」という言葉を信じる者はいなかったが、その言葉に嘘はなかったのだ。情に流されて企業経営を誤るくらいなら、無情になって経営にメスを入れなければならないと考えたのだろう。

日本企業の象徴とも言える大空電気。その倒産を回避させたい鷲津は焦っていた。大木会長に「やりなおしたいんなら、何もやらないことだよ」と言われたのはそんなときだった。

苦しみを追いかけてしまう鷲津

ストーリーの文脈から「やりなおす」というのは「企業を立て直す」という意味にとれる。しかし、大木会長は「あなたが人生をやり直す」という意味で用いているのだ。ここに気がつくまで15年かかった。
大木会長は見抜いていた。鷲津が企業を生かすことに執着することで苦しみから逃れられなくなっていることを。もちろん、大木会長の言うとおり、鷲津が何もやらなければ大空電機は倒産する。

だから、視聴者は混乱するのである。

企業を主語にしている限り、大木会長の「何もしないことだよ」は理解できない仕掛けなのだ。そのとき、大木会長は目の前の鷲津だけを見ていたのだ。一人の人間としての鷲津を救いたいと思っていたのだ。

目の前の人を常に優先してきたカリスマ

大空電機が倒産すれば、「カリスマ経営者」として讃えられていた大木会長の名誉に傷がつく。しかし、大木会長にとってはどうでもよいのだ。それは周りの勝手な配慮でしかない。

大木会長が昔も今も見ているのは「人」なのだ。「企業」の前に「人」なのだ。大木会長が守ってきたのは「企業」ではなく「人」だったのだ。大木会長が頑なにリストラを拒んできた理由でもある。

倒産の危機に何もしない大木会長は一見すると無責任のように見える。しかし実際は逆だ。目の前にいる「人」に対して責任を果たしてきたからこそ、大空電機を大企業に成長させることができたのだ。

すべてがつながったのではないだろうか。

いつしか我が人生のバイブルとなっていた『ハゲタカ』。
次はこのレベルのドラマにいつ出会えるだろうか。

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