多体問題で考える医療と科学(4/6)「東洋医学が科学になると困る理由」

多体問題で考える医療と科学3のつづき)

■医療者とシャーマンの違い

「病は気から」という言葉があるように、イメージが及ぼす影響力は無視できません。もっとも重要なのは、患者さん自身がよいイメージを持って治療に臨むことです。患者さんによいイメージを持って頂くためには、術者がよいイメージを持っていなければなりません。

術者が描いたイメージは、口調、身振りなどの態度で伝わる部分もありますが、しっかり伝えようと思えば演出とツールが必要です。そうした観点から見て、鍼灸はとても優れた演出とツールになります。私は、鍼灸の持つ、道具としての特殊性に注目しています。

鍼灸が物理療法であるいっぽうで、魔術師が持つステッキのような「心理的効果」も含んでいることは極めて重要です。演出次第で、心理に与える影響はとてつもなく大きなものになります。

魔法のステッキ

ただ、ここに大きな問題があります。この特殊性が鍼灸師を誤った方向に導いてしまうことがあります。もし、「よいイメージさえ持っていれば患者は治る」とツボを無視した施術になってしまうと、施術は限りなく呪術的です。呪術そのものと言ってもよい場合もあるでしょう。こうした鍼灸の使い方は、占い師の水晶玉と区別ができません。

演出が上手であれば、病気や怪我が治るほどの治癒力を引き出すことができるのかもしれません。「鍼を刺す」行為は見方によっては儀式的です。でたらめであっても、全身に鍼を刺していくと、意味が勝手に作られてしまうのです(患者さんがでたらめを見抜くことは困難)。

たとえば、全身に100本の鍼をしたなら、その演出効果は計り知れません。治ったり満足する患者さんがいたとしても、それは鍼灸の本質とはかけ離れたものです。しかし、シャーマンとしてなら成立しています。

サボテン

そんなふうに利用されている現実があっても、鍼灸は呪術でも儀式でもありません。イメージから導き出される治癒力には限界があります。鍼灸の本来の効果は、ツボの力を利用することでしか得られません。

心理作用を治癒力に利用することを否定したいのではありません。むしろ、補助的な力として利用できる力も鍼灸師の実力の一つです。補助を逸脱した使い方をすれば途端にシャーマンです。医療者ならば、わきまえて利用すべきです。

■東洋医学が科学になると困る人たち

東洋医学の宿命かもしれませんが、東洋医学は科学的説明を嫌う術者の隠れ蓑になりやすいのです。西洋医学ではない何かしらの行為が、医術であろうと呪術であろうと、「東洋医学」の名の下に行われやすいのです。

東洋医学の歴史は古く定義も実に様々です。「経験則の集積」と言われますが、二千年以上も古いと、現代人の認識からすると、誤った記述がありますし、明らかにつじつま合わせだったり、観念的な内容が含まれています。

巻物

科学で扱えない世界が含まれていることを都合良く解釈すれば、「何でもあり」という領域を作ってしまうことも可能なのです。「実証ができない」ことが前提になれば、あとは信じるか信じないかだけです。対象が心になってしまいます。

鍼は、尖鋭なデザインが視覚的なインパクトを生んでいます。灸は、独特の香りから宗教的な空気をつくり出すことができます。相手(患者さん)の心を操るには、鍼灸師というのは条件が整いすぎているくらいなのです。シャーマン的な素質に優れている者が、この利を見逃すはずがありません。

魔女の帽子

本来、鍼灸は肉体に作用させる道具です。物理的刺激が鍼灸の原点です。にも関わらず、心理に強く働きかけられるのは、科学では説明しきれない“何か”を秘めているからでしょう。その“何か”を副産物や付加価値と考えるのが素直な理解です。

しかし、肉体への作用よりも心理への作用を重視するものにとって、ミステリアスな部分が多いほど都合がよいのです。不思議な現象を見せられたとき、トリックを見せればマジックです。見せなければ「魔術」なのです。魔術師に科学の光は余計になります。

<つづく…

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