「腰痛の8割が原因不明」を信じますか?

■最近のマスコミによると

034627最近、テレビや新聞で頻繁に言われるようになっていることがあります。

それは、「腰痛の8割は原因不明で、慢性腰痛のほとんどは心因性である」という類の話。「ストレス」という言葉が原因の説明に使われることもあります。

この話を信じるか受け流すかは自由です。

私は受け流してきましたが、想いが収まらず書くことにしました。「ストレス」で腰痛を片付けるのは乱暴だと激しく思っています。

私は催眠術や心理療法は使えません。でも、慢性腰痛に対応できます。「どんな腰痛でも100%」とは言えませんが、高い確率で改善のお役に立てます。私に限ったことではなく、多くの鍼灸院が対応できるはずです。整体でも同様に。

慢性腰痛を、マスコミの言うとおり原因不明としてしまえば何もできません。心理カウンセラーにでもなって、心のケアをするしかありません。

もちろん原因不明の腰痛はあると思います。でも、8割がそうだという話を信じるわけにはいきません。「原因不明」というのは、ごく一部の(権威ある)人が言っているだけのことです。信じたところで私の現場には役立ちません。

■心因性の裏側には

ここで冷静を取り戻しておきます。

「心因性」という表現の裏側には何があるのでしょうか。それは、単に「痛みのある所に異常が見当たらない」ということです。

そういう場合は、痛みのある場所に何かを施しても成果が表れにくいのです。鍼灸でもマッサージ、何であろうが原因にないところに施しても、効果は期待できません。

原因が痛みの位置と離れたところにあるならば、そこを狙う必要があります。その「離れたところ」を探すためには理論が必要です。

その位置を「心」とする考え方、つまり「心因性」とすることは間違いと言い切れません。痛みは、心の状態で感じ方(強さ)が変わるからです。でも、これは「心は痛みの尺度を変える」ことを指摘しているにすぎません。

■慢性腰痛の原因

では、慢性腰痛の原因をどこに求めるか・・・
答えは一つではありません。ここでは私の答えを書きます。

不動則痛、動則不痛」という言葉があります。2009年に私が勝手に作ってしまった言葉で、「動かないから痛い、動けば痛くない」という意味です。活法の教えがヒントになって生まれました。元々はもっと単純で、「痛くない=居たくない」という言葉遊びのような教えです。

動物である人間は、同じところに居続けることを嫌うのです。同じ姿勢を続けることも嫌うのです。生来、人間は痛くなければ動き回りたい生き物です。

痛いから動けない」のは、感覚的に誰でもわかりますが、その逆は盲点です。「動けないから痛い」ことも考える必要があります。

大まかな話ですが、急性腰痛の場合は、「痛いから動けない」ことが多く、慢性腰痛の場合は、「動けないから痛い」場合が多いのです。

 急性 = 痛いから動けない(から考える) 
 慢性 = 動けないから痛い(から考える)

ここまでの話をまとめると、慢性腰痛を改善させたいなら動きを改善させればよいのです。私の観察によれば、慢性腰痛の人のほとんどが動きに問題を抱えています

柔軟性の衰えも問題ですが、痛みに直結しているのは連動性です。連動性の失われた状態で動かすから痛むのです。立ちっぱなし座りっぱなしのような、幅のない動作でも同様です。

「何をしても痛い、痛みのない姿勢が見つからない」場合は、「不動則痛、動則不痛」が当てはまらず、別の原因を疑って慎重に対応しています。

■慢性腰痛に必要な発想

慢性腰痛を改善しようとするなら、動きの観察が必要だと考えています。「動きの観察」ですから、動きの中にヒントがあります。ですから、レントゲンやMRIではヒントが得られません。

動きの観察は、至ってシンプルです。動きにくい方向、苦手な姿勢、痛みや違和感の出る姿勢を探すだけです。左右差がもっともわかりやすいかもしれません。捻るような動きを観ることも重要です。また、ちょっと難しくなりますが、関節の動く順番もヒントになります。

こうした観察を繰り返していると、法則性に気がつきます。

動作が行われるとき、必ず支持点が生まれます。移動するポイント支持するポイント、この2点が重要なのです。これは、体が崩れないようにバランスを保持するために、絶対に必要なことです。要するに、骨や筋肉は単独で動いていないのです。

シーソーモデル
動くためにはパートナーが必要です。「腰が痛いから腰を揉む」というのは、ペアの片方しか相手にしていないのと同じです。「いくら揉んでも治らない、だから心因性だ」というのは、盲目的だと言わざるを得ません。

痛いところにアプローチする、というのは発想の出発点かもしれませんが終着点ではありません。ラジオの音声が乱れたとき、ラジオの故障を疑うの素直な行動です。でも、雪の日には電波が乱れることを知っていれば、天候が原因ではないかと並行して疑うことができます。

慢性腰痛を治す発想、それは、勇気をもって患部から目を遠ざけることから始まります。慢性腰痛と言っても、その種類はさまざまです。つまり、動きの問題は一つではないのです。慢性腰痛はこのツボ!と決めつけることはできません。

問題点がハッキリすれば、ツボが決まります。

動作分析で問題点を探すのが古武術鍼法です。話の展開を自分の方に引き寄せて恐縮ですが、こうした技術から見る限り、「慢性腰痛のほとんどが心因性」という説に心が傾くことはありません。

■心の軽視はありません

常に温厚でありたい私ですが、今回の記事は主張を強くしてあります。敵は作りたくありませんが、疑問に思うことは書いた方がよいと考えました。味方がいると信じて書いています。

念のため、最後にもう一度書きます。

痛みの感じ方は、精神状態で弱くも強くもなることは確かです。それを否定しているわけではありません。むしろ、精神状態までコントロールしてこそ一流だと思っています。

【関連記事】
離れたツボ、その効果』(2009.10.12)
不動則痛、動則不通(動作の連動性理論)』(2009.10.18)

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コメント

  1. のり より:

    私も同様に考えてます。原因不明なのではなく原因となり得る要因が複数絡み合っているから「これ!」というのが見付けにくい。

  2. クリ助 より:

    >のりさん
    ご賛同ありがとうございます。おっしゃる通り、複数の問題が絡んでいると見つけにくいですよね。原因が常に一点に濃く存在することの方がむしろ少ないかもしれません。

  3. sano より:

    五臓が五情のアンバランスによって破られ腰痛になっていると考えれば、ストレスが原因といってもいいのかもしれませんが、心因性とかストレスといわれると、どうもしっくり来ないですね^ ^
    「腰痛の8割が原因不明」というのは、「検査で分かる範囲内の」という文言が抜けているだけだと解釈しています。
    マスコミが、そういった情報を流してしまうと、治らないと思い込んで余計に治りにくくなってしまうので自粛はしてほしいところですが・・・。

  4. はりせん より:

    ストレス(精神的緊張)は、呼吸を浅くします。つまり、酸素の取り込み量が減ります。このとき、真っ先に酸素の供給が減らされるのが筋組織になります。
    実際、腰痛患者の腰の血液を調べて酸素欠乏が確認されたという研究があります。酸欠は、血流の減少ともイコールです。
    酸素の足りない筋肉は、拘縮を起こします。急激な酸欠では、痙攣を起こします。寒い日に走って足がつるのと同じ減少です。
    拘縮を起こした筋肉は、姿勢を悪くしたり、動きを悪くしたりします。
    東洋医学的に気血のめぐりが悪くなって、経筋が養われなくなったと考えても同じことでしょう。
    心因性とかストレスとかいう言葉は軽く感じられるかもしれませんが、人体には多大な影響があります。
    そして、この話はクリ助先生の主張と矛盾しません。

  5. クリ助 より:

    >sanoさん
    検査でわかる範囲は限られていますよね。もちろん、検査でしかわからないことも多々ありますが。
    当院に通院されている患者さんも、このような報道をみて違和感を抱いたようです。患者さんとの会話がきっかけで、この記事を書くことになったのです。

  6. クリ助 より:

    >はりせんさん
    丁寧な解説ありがとうございます。精神的緊張から筋肉の酸素欠乏、納得です。矛盾のないように説明していただけて嬉しいです。
    肉体と精神、つながっていますね。

  7. BUN太 より:

    はじめまして。
    鍼灸師として興味深く拝見させていただいております。
    たしかに「現代医学的な検査では8割が原因不明」の方がしっくりきますね。
    でも慢性腰痛の原因の一つが心因性というのは、あながち間違いでもないかもしれない、とも思います。
    原因が心因性だからといって、心理療法や心理カウンセリングでしかアプローチできないというのでは、少し寂しい気がします。
    納得いく施術を受けて心の安定が得られれば、心因性の腰痛でも症状が改善されるということにもなりませんか?
    それがたとえ鍼灸でも整体でもマッサージでも気功でも、そして西洋医学でも。

  8. クリ助 より:

    >BUN太さん
    ご意見ありがとうございます!
    私も、BUN太さんと同じように心の安定で腰痛は改善すると考えています。ただ、腰痛でなくても、心の安定は、すべての症状に対して好転させる働きがあるはずです。
    胃潰瘍の原因は、少し前まで「ストレス」と言われていました。それが常識だったはずです。ところが、今ではすっかり原因はピロリ菌と言われていますよね。
    ピロリ菌を除去しなくても、胃潰瘍が治る人は治っていたわけですから、ピロリ菌だけを悪とする風潮も違和感を感じています。
    症状のつらさは心が訴えるわけから、BUN太さんのおっしゃるように、納得できて、心が安定するような治療が大事だと思います。

  9. 黒子 より:

    ちょっと記事に乗り遅れましたが、私も初コメントさせていただきます。
    同じく鍼灸師の立場からですが、大まかな主張はクリ助先生をはじめとしたコメントの皆様と同じになります。
    その上で、マスコミが言いたい(であろう心因性の主張)を書かせてください。
    Q.「腰痛の8割は原因不明で、慢性腰痛のほとんどは心因性である」
    ①ストレスが原因であるのでリラックスをする時間をとりなさい
    ②気にしすぎはストレスになるよ
    ③気にしすぎると余計に痛くなるよ
    A.①は交感神経による筋緊張の悪化
    ②は純粋に気にするという持続思考による交感神経亢進
    ③痛いという思い込み(プラセボ)による痛みの増悪
    メディアなどは前提部分をぼかしたりプラスにもマイナスにも見れる書き方をするのが問題だと思いますが、好意的に解釈をすれば、おそらくこれらの理由により心因性と書きたいのだと思います。つまり、カウンセリングは認知行動療法など大仰なものでなく、あなたの心の持ちようでいかようにもなる腰痛が多いのですよ。
    といいたい記事なんだと思います。(心療内科へのステマでは無いと思います)
    そういう意味で、実際の除痛および局所循環の解決、治療を受けたというプラセボを総合して、鍼灸治療で腰痛治療は良いと思いますネ! 長文失礼しました。

  10. DANNY より:

    やはり普段の生活の癖や習慣が
    身体に影響を及ぼすのですね。
    とても勉強になります^^

  11. jackal より:

    だいぶ亀レスですみませんが・・・。
    この手の話では一番最後の言葉をしっかりと
    読んだほうが良いと思います。
    特に医学関連については断定口調というのは
    非常に少なく、例えば
    「・・・とされている」
    「・・・だろう」
    「・・・とした」
    「・・・と思われる」
    「・・・と言われる」
    というものがほとんど。つまり、多くは推測に過ぎないんですね。
    痛みは非常に個人的な体験ですから
    平均的な話をすることは困難な
    話であって、8割がこうであると言い切るには相当な根拠が必要です。
    ですから、おそらく
    「考えられる」という表現が多いと思います。考えるだけなら、考え直しても
    責任はないですからね。
    メディアとしての自覚があるなら
    権威主義ではなくデータで示して欲しいもんですね。

  12. クリ助 より:

    >黒子さん
    丁寧な解説、ありがとうございます!
    私自身が、18~20歳の頃に腰痛と坐骨神経痛に悩んだ時期があるため、「心因性」であるとか「ストレス」であるとか、そういう単語にはとても、敏感になっているところがあります。「心の持ちようでどうにかなる」ような雰囲気が全くありませんでした(画像診断では顕著な異常はなし)。
    腰痛の患者さんを診るとき、いつも過去の自分が納得できる原因、治療法を常に考えています。そうすると、思ってしまうのです。「ストレス」では納得できないと。もちろん、「ストレスが原因です」に「あ、そうだったのですね!」と納得できる患者さんもいると思います。納得した時点で、症状は軽くなるのだと思います。
    前置きが長くなりました。私がお手伝いしたい患者さんは、「心の持ちよう」では改善できなかった、私のようなタイプなのだと思います。「ストレスって言葉で片付けるな!」っていう怒りみたいなものがありまして。なんだかんだ言って、自分が(患者だったら)納得できる治療スタイルに向かっているわけです(笑)

  13. クリ助 より:

    >DANNYさん
    コメントありがとうございます!
    おっしゃる通りでして、癖や習慣が体の連動性を奪い、腰痛などに発展していくと考えております。

  14. クリ助 より:

    >jackalさん
    そもそもな事を言えば「原因不明が8割」という表現が、かなりぼやけたものですよね。そして不自然。
    「原因にたどり着ける腰痛は2割」ということですよね。この2割の内訳を説明するような記事であるならば黙っていたのですが(笑)
    本来から外れますが、私の役割はその8割の方にあると考えています。つまり、腰痛の患者さんの8割は、病院より・・・。今日はこのへんで!

  15. 通りがかり より:

    メディアが勝手に言っているだけではないんですよ・・・

  16. クリ助 より:

    >通りがかりさん
    そうですよね。メディアが創り出した話ではなく、取り上げている話ですからね。もともとはアメリカの論文が発端、というご指摘かと。
    そうではありますが・・・この説を支持する権威的存在があることは重々承知なんです。この記事は2つの意味(ソースとメディア)に対するアンチテーゼですから。

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