「鍼灸の基本がマッサージである」という誤った説が蔓延しています。
私もこの空気に飲まれ、鍼灸と合わせてあん摩マッサージ指圧師の免許を取ってしまいました。今さらなことなので、後悔はしていません。学びの場では素敵な仲間と出会えましたから。

■触診のスケール感
鍼灸が求める触診と、マッサージ系の触診では、スケールが全く違います。仮にマッサージを基準としてしまうと、ツボは、揉んだり押したりする時のスケールでしか捉えられないのです。はっきり言ってしまえば、親指の腹のサイズ感でツボを捉えることしかできないのです。これは鍼灸師として致命的なことです。
鍼をするということは、鍼の太さが基準です。ですから、少なくともミリ単位での触診が必要なのです。私の意見が入る余地はなく、鍼とはそういうものです。親指のスケールのままツボ探しをすることは、ゴルフのカップにサッカーボールを入れようとするのと同じです。成り立つわけがありません。

マッサージと鍼灸を並行して行う場合、必ずスケール感を変えなければなりません。少なくとも2種類のスケールを使い分けることが必要なのです。使い分けなければ、鍼のみが持つ究極の鋭敏さが繰り出す効果には、決して出会うことができません。鍼灸の技術を磨くということは、鍼の鋭敏さに準ずる鋭敏な指先を作ることだと思うのです。こうした感性が伴わなければ、鍼灸の原典である『素問』や『霊枢』の価値に気づくことなく終わってしまう気がします。
東洋医学のベースとなる東洋思想はスケールの大きなものです。しかし、それは「細かいことは気にせず大雑把にぼんやりと考えろ」という解釈を許すものではありません。鍼という極限まで小さな道具を生み出しているのが、その証拠です。
■鍼灸の刺激の本質は「量」ではなく「質」にある
触れる面積が少ないほど、体は敏感に反応します。これは、触れる際の力学的なエネルギーに比例していないということです。
物理療法でありながら、物理的な刺激量では計れないものが鍼灸にはあるのです。少なくとも鍼灸の本質を語る時「量」では言い表せないのです。ですから、鍼灸は刺激の「質」こそ重要です。「質」とは、鍼灸による刺激を人体がどう解釈するかです。
接触するだけより刺入した方が優しい刺激になるということが起こります。極端な言い方なようで極端ではありません。「痛くないから優しい、痛いから優しくない」と分けることもできません。
ついでに言うと「気持ちいいから優しい」というわけでもないのです。マッサージで気持ちよい刺激ができるようになったからと言って、鍼灸における良質な刺激を生み出すとは限りません。なぜなら、鍼灸とマッサージは求められる技術の次元が異なるからです。
■種目が違う
鍼灸とマッサージ、それぞれ上手いという専門家は確かにいます。それは、シンプルにそれぞれが上手いのです。揉んで揉んで…を繰り返すだけで鍼灸の方が勝手に上手になるわけがありません。気持ちのいい触り方は上手になるかもしれませんが…。バレーボールを練習しても、バドミントンが勝手に上手くならないと全く同じ理由です。種目がそもそも違うのです。

患者さんの“今”の「気持ちいい」を引き出す慰安的マッサージをいくら研磨しても、患者さんの“未来”の「変化」をもたらす技術にはなりません。
裏返せば、慰安的鍼灸を追究するのであれば、マッサージの延長上に鍼灸を配置することができるかもしれません。
■鍼灸を慰安にしたのは誰か
そもそも、鍼灸の歴史は慰安の歴史ではありません。古典の中に慰安の話を見つけるのは容易ではありません。
慰安を行うことが悪いと言いたいのではありません。ただ、鍼灸で慰安を極めるのは、分が悪すぎるのです。ただでさえ、食べていくのが難しいと言われている鍼灸師。就職先を探している鍼灸師に「鍼灸の基本はマッサージである」というレトリックは都合がよいのです。修行という名目で安価に医療系国家免許所有スタッフを雇用することができるからです。
繰り返しになりますが「鍼灸+マッサージ」という組み合わせが問題の本質ではなく、マッサージが上手になれば鍼灸が上手になるというレトリックが問題の本質です。ここに気が付かないと、いつまでも、慰安と医療の混合施術から抜けることができず、自分の価値を正当に評価してもらう機会を得られなくなります。
私は、マッサージ経験を持たない優秀な鍼灸師をたくさん知っています。彼らは「マッサージが基本ですよね」とは決して言いません。
■慰安と医療の区別(保存版)
私なりに、慰安と医療を区別してみました。このように考えると、揉んで揉んで…を繰り返しながら患者さんの気持ちよさを追究することと、患者さんの病気や怪我の回復を追究することと根本的に構造が違うのです。
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コメント
鍼灸の基本がマッサージであるという説が蔓延しているのであれば、
「鍼を打つ人」の竹村文近先生のエピソードが原因の一つかもしれませんね。
>ジャッカルさん
あり得ますね。
芸能人を診ていることを本で紹介されている先生ですよね。
私は母指を鍼のように扱う先生を知っていますよ。母指でも鍼でも同じ効果を出しますよ。スポーツの現場で20年間真剣勝負をされている先生です。
>あかさたなさん
戦国の世、武士はみんな刀を持っていました。その時代に「私の先生は素手でも日本刀と同じくらい強いですよ」と言う人がいたのかなぁ…。