■経絡で動きは整えられない
活法研究会(鍼灸師と柔道整復師のための勉強会)には、「活法(古武術整体)」と「整動鍼®」を学びに全国から集まっています。今回は整動鍼の事を話します。

「整動鍼」は、私が提唱している鍼灸理論です。活法(古武術整体)の影響を受けて生まれた理論なので、当初は「古武術鍼法」と呼んでいました。この名前はかっこいいと思っていたのですが、古武術をやりながら鍼をするわけではないこと、古武術に興味がない人でも同じく使えることから、昨年「整動鍼」と改名しました。
「整動」という概念がポイントです。従来の鍼灸には「動きを整える」という発想がなかったのです。いっぽう、私が習得している活法は、動きを整える技のオンパレードです。「動きを整える」とはどういうことなのか、活法を学びながら自分の体で感じ、頭で考えました。その結果、「人体の動きは軸と張力で調整されている」という結論に至り、ツボで整えることにしたのです。
簡単に言えば過剰な張力をキャンセルすることが整動鍼の目的です。触れてわかる過剰な張力もあります。具体的には、張り感や圧痛(押して痛い)です。ただ、闇雲にやっても軸は整いません。また、体に触れながらツボを探す、行き当たりばったりの治療になってしまいます。
整動鍼は、痛みの位置、痛みの出る動き、痛みの出る状況から、最適なツボの位置を割り出します。ですから、同じ情報を得れば、同じツボにたどり着くことができます。

その結果、高い再現性を得られます。そして、直後に変化がわかる即効性。理論は原始的でシンプルです。
整動鍼は私の鍼灸術を「流派」にまとめたものではありません。経絡をはじめとする鍼灸理論をいったん白紙に戻し、刺鍼の反応をつぶさに観察し、ツボ刺鍼によって起こる反応を整理したものです。
理論にはできるだけ個人的な趣向を入れてないようにしています。分析や結果に客観性を持たせるため、観察可能な「動き」にフォーカスしています。
■見えないことを信じる必要などない
整動鍼が追究しているのは、人体の構造と法則です。解剖学や従来の運動学ではわからない構造があります。意識構造が実際の肉体とどのように繋がっているのか、ツボという視点から見ると気づく構造があります。
こうした試みは、鍼を使える鍼灸師にしかできない仕事です。一部のツボは指で似たような作用を出せますが、鍼を使わないと本当にツボの効果は引き出せないからです。
経絡というフィルターを取り除くことで、いろいろなことが見えてきます。鍼灸は経絡と気を信じなければ始まらないと強制されることがあります。しかし、経絡と気を無視しても治療は十分に行えます。大事なことは、見えないことを信じることではなく、見えることを素直に受け入れることです。
整動鍼は、いったんは経絡と無関係なのですが、最終的には合流します。整動という概念だけで全てを調整するのは無理があります。血管・リンパ系の流れを整える考えも必要です。そこで、従来型の経絡に基づく鍼灸を「整流」と定義しました(勝手に)。
ツボの作用に整動と整流があると定義するなら、従来の鍼灸は整流のみに言及したものだと言えます。鍼灸の本領を発揮させるなら、整動という概念が必要だと気が付きました。
■経絡は人体構造を表現したデザイン
整動鍼から見ると、経絡は応用的なものです。とても難しく感じます。なぜなら、見えず触れることができない内臓をツボで調整しようとする理論だからです。
その経絡を運動器疾患に使おうとすると無理が生じます。でも、これまでは経絡しかないので、経絡を無理矢理使ってきました。経絡で運動器の調整をすることは、整動鍼の立場からすると成り立っていません。うまく行くときもあればうまく行かない時もあり、結果が不安定になります。
経絡は縦に走るシステムを横帯で縛って安定させている構造です。こういう構造があると仮定することで成り立つ治療システムです。見えるものではありません。複雑な人体構造を単純化させ可視化させるために作られたデザインだと私は考えています。
経絡があるとかないとか、そういう議論には意味がなくて、人体上に描かれたデザインです。だから人工的なものです。複雑な人体の構造と機能を単純化させ、問題点を絞り込むのです。体の不調を経絡の問題に置き換えることで、治療の切り口を作るのです。そういうものがなければ、鍼があってもお灸があっても、どこから手を付けるべきわかりません。つまり、経絡は鍼灸において、診断と治療のガイドラインとして機能しています。
■経絡は“ひねり”に対応できない
経絡では「縦方向(長軸方向)」の調整ができます。
関節が動く時、伸びる方と縮む方があります。伸びる方に問題があれば、「つっぱる・つれる」系の違和感や痛み、縮む側に問題があれば、「つまる」系の違和感や痛みが出現します。ただし、経絡で調整できるのは伸張する側のみです。表と裏の関係から、二次的に短縮側が調整される場合があります。
たとえば、頚の後ろが痛い時、下を向くときの「つっぱり感」は簡単に取れても、上を向いた時に「つまり感」は簡単に取れないのです。これは腰でも同じことが言えます。前屈の方が取れやすく後屈の方が取れにくいのです。これは、人体の構造から来る得手不得手ではなく、治療システムの問題です。ここをクリアしない限り、鍼灸師は運動器疾患の技術に足止めがかかります。
動いて「つまる」ところは、折れ目の内側にあたります。この時の動きを円運動で考えると、回転軸に相当します。整動鍼は、この軸を整えることを得意としています。

他にも問題になることがあります。経絡では「捻る」動きを調整できなことです。人体の動きは単なる伸び縮みではありません。何をするにしても捻るという動きが入ります。脊柱(背骨)の構造一つとっても、捻りに対応していることがわかります。肩や股関節は捻りの代名詞。肘や膝も捻ることができる構造です。
人体は常に「捻りながら伸び縮みする」ものです。だから、捻りが制限されていると正常な動きができません。捻りの重要性は、活法を学んで気が付きました。私の中で革命が起こりました。「捻りながら伸び縮みする」ことを一言で表現するならば螺旋(らせん)です。人体は常に螺旋状に動いていることを前提に整動鍼はツボ選びをします。
たとえば立ち上げる時。脚を内捻りもしくは外捻りをしています。こういう体の仕組みを上手に利用するのが整動鍼です。
2年以上前ですが、こんな動画を撮影しました。膝下をどちらかに捻ると立ちやすく、逆に捻ると立ちにくくなります。ぜひ、誰かにやってみてください。捻りがどれだけ動きに関係しているのか実感できます。
■運動器疾患にはどう対処したらよいのか
発想が経絡に縛られている限り、運動器への対処は苦手なままになります。これは鍼灸師の技量とは関係ありません。経絡で運動器を調整しようとすることが、そもそも向いていないのです。経絡はあくまでも内臓調整のためにデザインされたシステムだからです。
この現実を突きつけられた鍼灸師は、運動器疾患では他の方法(発想)に頼らざるを得ません。たとえば、痛いところを直接刺激するような局所の鍼や、「トリガーポイント」と言われる方法です。こうした方法で鎮痛効果を期待します。
ただ、整動鍼の立場から見ると原因にアプローチできているか不明です。「痛みをごまかしている間に本当の原因が消えるのを待つ」というのが真実だったりします。
鍼灸に限界を感じる人は整体に…という流れもあります。3年をかけて免許を取ったと言うのに、鍼灸に可能性を見出せず鍼灸を捨てる鍼灸師がいるのは残念です。活法研究会にも、そういう鍼灸師が訪れますが、整動鍼を知って、鍼灸への気持ちが再燃する方が何人もいらっしゃいます。限界だと思うラインを目の前で突破されたら、鍼灸から心が離れるわけがありません。
■鍼灸で捻挫の治療はできるのか
事は7月にさかのぼります。
整動鍼セミナー(7月24~25日)の時です。受講者の富田さん(鍼灸師・柔道整復師)が2日目の朝、片足を引きずって現れたのです。訊いてみると、転倒し不運にも足首を捻挫してしまったのです。その日は、たまたま足を調整するツボを紹介する予定だったので、デモンストレーションの患者役は自ずと富田さんに決まりました。
富田さんの捻挫は、ちょっと足を捻ったくらい、という程度ではありません。靱帯を損傷している本物の捻挫です。受講者に囲まれる中、私はこの捻挫と真剣勝負することになってしまったのです。私自身、この捻挫に整動理論がどこまで及ぶのか興味がありました。
私が日頃診ている捻挫は慢性期ばかりです。捻挫したばかりの急性期を診る機会は少ないので、どうなるか楽しみでした(富田さん、ごめんなさい)。ただ、全然成果が出ないとセミナーのテンションを下げてしまうので、富田さんも私も崖っぷち状態。プレッシャーを感じながら施術に入りました。ギャラリーも複雑な心境だったと思います。これから習うツボの効果が不発するのは見たくないでしょうから。
その施術前の状態はこちら。これが“やらせ”ではないことは、あとでわかります。
<捻挫の治療前>
施術に入りました。もう逃げることはできません。実際の写真です。痛みは足首、鍼は膝に行いました。足首の動きは腓骨と連動しています。だから、腓骨を調整したのです。一見離れているようでも、動きは深く繋がっているのです。

施術直後の動画は撮影していませんでした。
午後になって撮った動画がこちらです。
<捻挫の治療後>
この結果は、たまたまではないのか???
医学的に非常識なので、疑われても仕方ありません。こういう劇的な回復は、臨床に携わっている者なら誰でも経験があると思います。自分の実力と釣り合わない結果が時に出てしまいます。
この富田さんの症例も場の空気が後押しになったかもしれません。ただ、整動鍼では特別なことではありません。整動の常識を多くの鍼灸師に伝えたくてセミナーを全力で行っています。
セミナーに参加された鍼灸師が私と同じ結果、時にはそれ以上の結果を出されています。その報告を聞くのが楽しくて仕方ありません。他の鍼灸と比べて違っているのは、「整動」という、経絡に縛られない発想だけです。経絡から解放された時、驚く変化を目撃することができます。
まだまだ驚くことがあります。整動鍼で捻挫の治療をしたのが7月25日。その時はまだ内出血の様子は見られませんでしたが、その後、内出血が表に現れてきました。張本人の富田さんがしっかりと変遷を写真に残していました。

もちろん、鍼の内出血ではありません。その時に鍼をしたのは膝にあるツボに鍼一本です。そもそも24日の夜、内出血するほど靱帯を損傷していたのです。
ここからわかるのは、出血していたにも関わらず、整動をしたら痛みが大幅に軽減したことです。内部の組織が壊れたら痛むのは当然ですが、この症例から痛みの原因はそればかりではないことがわかります。
動きに歪みが出ると痛みになるのです。
衝撃などで体の動きに歪みが生じると、その歪みで動きが制限され、痛みに発展するのです。肩こりも同じです。凝っているから動かないのではなく、動かないから凝り感を感じるのです。
2日後(7月27日)には、内出血の痕がありながらも、小走りが可能なところまで回復されました。ここまで詳細を残してくださった富田さんに感謝です。
この時の様子を同席されていた、谷地さんと渡邉さんがブログに記しています。ありがとうございます。この記事と内容と重なるところがありますが、それぞれの視点で書かれているのでぜひ。
2016年8月28日
◎「足首の捻挫と鍼治療(テーピング vs 整動鍼)」(谷地さんのブログ)
2016年8月29日
◎「整動鍼☆臨床実践編セミナ-の報告と足首の捻挫」(渡邉さんのブログ)
◎整動鍼を学ぶには
・整動鍼セミナー 腹背編(2016年10月23日~24日) 定員20名
・整動鍼セミナー 四肢編(2016年11月20日~21日) 定員20名
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