■鍼灸治療のあと耳鳴りが強くなる理由
突発性難聴が好転する際に、耳鳴が一時的に強くなることがあります。理由は、耳内部の血流が改善し、聴力が変化しているためと考えられます。聞こえていなかった音が脳に飛び込み、脳が混乱するのでしょう。
鍼灸治療がよく効いている証拠です。このあと、耳鳴りが徐々に弱まり、聴力が回復していきます。ただ、鍼治療を終えた後に耳鳴りが強くなったと感じた患者さんは「鍼治療で悪化したのでは!?」と不安に襲われることがあります。そうならないように、必ずこうした現象が起こることを事前に説明するようにしています。

■不安は、気遣いだけでは消えない
治療が良く効いている時ほど、変化も大きくなります。患者さんにその変化を正しく解釈して頂くことが大事です。「効いている証拠です」と説明しても、患者さんは「このまま悪化してしまったらどうしよう…」と不安から抜け出せないことがあります。
鍼灸師は信頼されていなければなりません。
「患者さんを不安にさせない」ためには、配慮や気遣いだけでは足りません。マナーやホスピタリティ(もてなし術)も大事だとは思いますが、それは満足度の要素になるでしょう。施術がもたらす変化を正確に予測することで安心が生まれます。正確な予測をするには、正確な施術が必要です。つまり、安心をつくるのは技術です。
■突発性難聴の本当の意味
突発性難聴の治療は、結果が数字で出ます。耳鼻科で「突発性難聴」と診断され、約2週間のステロイドを処方されます。点滴の場合もあれば、服用の場合もあります。当院に訪れる患者さんの多くは、突発性難聴と診断された後、脳の検査(CT/MRI)まで済ませている場合があります。
脳の検査は、突発性難聴の証拠をつかむためではなく、脳に悪いものが潜んでいないかを調べるために行われます。脳にも耳にも悪いものが見つからず、聴力が突然低下したものが突発性難聴です。
突発性難聴である証拠はどこにも見つかりません。見つからないものが突発性難聴です。患者さんは、「突発性難聴」という言葉にこだわり、縛られます。でも、「原因が見つからない突然の聴力低下が突発性難聴」というのが本当のところです。

病気の中には、病名がわかると同時に治療法や対策がわかるものがあります。感染症は典型例です。そのいっぽうで、病名というのは、原因が特定できない症状にも付けられます。治療をする際に、病名が大事になる場合と、病名が全く役に立たない場合があります。突発難聴は後者です。
突発性難聴と言われた時点で、原因が見つからなかった(見つかりそうにない)と解釈するのが正しいのです。
では、ここから鍼灸でどのように考えているのか書きます。
■鍼灸院の突発性難聴の治療はどうしているのか
鍼灸で突発性難聴を治療する際に、注目しているのは血流です。ただ、耳の中の血流というのは、目に見えませんし、検査でも調べることができません(検査で出るほどの血流不全であれば耳の問題どころではないです)。つまり、突発性難聴をもたらす耳内部の血流不全は、微少レベルだと言えます。
わずかでも酸素と栄養が足りていなければ、聴覚は狂います。100ボルトを必要とする電気製品に90ボルトの電圧しか提供しなかったら、仮定の電気製品のいくつかは異常を示すでしょう。パソコンのような電子機器では特に。耳は精密なセンサーですから、わずかな血流減少でも影響を受けてしまいます。

このように考え、鍼治療で血流改善を促すと、聴力が回復していく例がたくさんあります。ただ、その効果を科学的に証明するのは難しいと言えます。ただし、治効メカニズムを科学的に説明できないのは他も同じです。突発性難聴の時に使用されることが多いステロイドも治効メカニズムを説明できません。そもそも、突発性難聴が原因不明と定義しているわけですから、薬の根拠はないのです。
■科学的であることより大事なこと
残念ながら、ツボの根拠を示すのは難しいです。言えるのは、「○○というツボを使ったら聴力が回復した症例がある」という話だけです。中には、”たまたま効いた”と思われても仕方ないものもあります。
ただ、毎日何例も診ていると(現在、半数の患者さんが突発性難聴か耳鳴)、突発性難聴に鍼灸治療が有効であることは経験的に間違いありません。カルテを見返せば、あのツボが良く効いたのだろう、という傾向を探ることもできます。
自分の臨床経験は積極的に共有するようにしています。現在、私が院長をしている養気院(群馬県伊勢崎市)と、姉妹院であるカポス(東京都港区/品川駅)でシェアしている症例は数多くあり、現在も増えています。完治する症例もあれば、思うように改善に至らなかった症例もあります。どちらも鍼灸治療の実際です。
100%の回復を約束することはできません。
治らなかった一例を取り上げて、鍼灸を批判しようとする人もいます。それも自由です。私は、ただ症例を積み重ねるだけです。
臨床家として関心があるのは、目の前にいる患者さんなのです。聴力が回復する方法を探すのが仕事です。治効メカニズムが証明されるまで何十年と待つなんてことはしません。誤解しないでください。科学的な証明に価値がないと考えているわけではありません。できるなら科学的な裏付けがあった方が何かと便利です。
■ツボと向き合って答えを探す
臨床は、パターンを試すことが大事です。実際の臨床では、いくつものツボの組み合わせを用意して、順番に試すことが多いです。
ツボ一つ一つに丁寧に向き合うことが大事です。ツボ一つ一つがもたらす変化を丁寧に観察していくと、特定のツボで耳の状態に変化が起こることがあります。時に、その場で変化します。
鍼灸治療は安全でやさしい治療法です。ただ、身体中に何百本と鍼を連続したり…などしたら体力を奪われてグッタリしてしまうでしょう。さすがにそんな非常識な鍼灸師はいないと思いますが…。ツボの栄養と同じでその時に必要な分があるのです。過剰なのはよくありません。
■万能なツボはない
残念ながら「必ず聴力が上がる」というツボはありません。ツボは言葉と似たところがあり、その状況や使い方によって意味が変わります。「けっこう」ですが、時に承認、時に拒絶の意味になるのと似ています。
だから、同じツボが時に違う効果になります。
同じ症状や病名なのに、鍼灸では違うツボを使うことは珍しくありません。鍼灸師は、言葉を選ぶようにツボを選ぶのです。器用は不器用も鍼灸師の差になりますが、状況に合わせた最適なチョイスも腕の差です。
■突発性難聴のツボは、顎のツボ
最後に、突発性難聴に対してどのようにツボを選ぶのかを説明します。
突発性難聴は耳の中の血流が悪くなると発症すると考えられるわけですが、注目すべきは、耳が顎の関節と隣接していることです。耳の穴の中に指を差し込んで口を開けたり閉じたりすると、顎の関節が耳に近いことを実感できます。
問診の際に、こうした話をすると、何割かの患者さんは「わたし顎関節症なんです」と教えてくれます。「発症前に顎や耳の周辺に痛みを感じた」という話も多いです。

耳に隣接する顎は身体のアチコチから影響を受けています。頚、肩、肘、手、腰、膝、足首など…。どこからの影響がもっとも強いのかを考えることが最初の一歩です。手首にあると判断すれば手のツボを使い、足首にあると判断すれば足のツボを使います。
難聴だから耳の周り、顎だから顎の周り、と考えて済むほど耳の治療は単純ではありません。耳の周辺ばかりに鍼をして改善したら何も苦労はしないのですが…。
結論として、顎を良くするツボが大事です。
養気院(群馬県)でもカポス(東京都)でも、そうした考え方でツボ選びをして実際に成果を上げています。顎が整うと、首も肩も整うので、首こりや肩こりが軽くなっていいきます。突発性難聴の治療は首こり・肩こり治療の延長上にあります。ただし、例外もあって、首や肩にこだわらずにツボを選ぶ時もあります。
■実際の症例
こちらのページで症例の一部を紹介しています。
・養気院(群馬県伊勢崎市)の症例
・カポス(東京都港区/品川駅)の症例
■ブログ内の関連記事
◎突発性難聴になったらすぐに読んでほしい記事(2014-8-9)
◎突発性難聴になったら2番目に読んでほしい記事(2014-8-10)
◎突発性難聴を半年経ってから治療した症例(2014-8-23)
◎実際のところ、鍼灸院で突発性難聴と耳鳴りは治るのか?(2014-11-23)
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コメント
クリ助先生、初めまして。
私は今年の10/26に激しいめまいと吐き気で倒れ、突発性難聴だと診断されました。三週間の入院と二週間の通院治療をしていますが、耳鳴りが酷く辛い思いをしています。
ブログを読ませて頂くと色々思い当たることがあり(退院直後から聴力が回復してきましたが、同時に耳鳴りが酷くなりました)少し安心しました。効果が出るかどうかは分かりませんが、たまたま本日カポスのWebサイトを拝見し、早速予約を入れさせて頂きました。発症後3か月以内ということで、どうにか少しでも回復できればと願っています
>あやさん
はじめまして。
ブログを読んでくださりありがとうございます!
3ヶ月以内であれば、実際に改善例が多数ありますので、お役に立てるかもしれません。
私は品川のカポスでは施術をしていないため、直接お会いできないのが残念です。でも同じ技術を用いて治療しておりますので、技術と経験の面ではご安心ください。